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幻蒼物語 ~ファンタズマブル~  作者: K. Soma
第一部 無限の断絶
17/83

結晶少女 16

 キィンと鳴った甲高い音で目を覚ますと、クリーヴは寝台(ベッド)そばの補助机(エンド・テーブル)、その上に置かれた蝋燭の火を消した。音は蝋燭が溶け、途中に打ち込まれた釘が皿に落ちて鳴ったものである。季節や天候で燃焼時間がブレるため精度にいくらか問題があるが、それでも安価や簡易性から、このような蝋燭時計はファンタズマブルで広く用いられていた。

 

「ん……目覚めおったか」

 

 起き抜けのクリーヴに少女が声を掛ける。見れば昨晩と変わらず読書に勤しんでいた。

 

「あれからずっと読んでたのか」

 

「うむ。(わし)に睡眠は必須でないからのう」

 

「便利なものだな」

 

「にしても随分早起きじゃな。まだ夜が明けたばかりじゃぞ」

 

「いつもこの時間だ」

 

 それが習慣だった。今では蝋燭時計の誤差まで加味した上で適切な位置に釘を打ち、毎朝この時間に起床できている。

 

 クリーヴは神妙な面持ちで水平に(てのひら)を交差し、果物籠から木苺をいくつか摘まんだ。

 

「……それだけでよいのか?」

 

 既に少女も昨日一日でクリーヴ・エインシェドラグの生態を……食事にかける並々ならぬ意気込みを知っている。彼にしては随分あっさりした食事だなと、不思議に思った(それでもやはり目を瞑りよく噛んで味わっていたが)。

 

「ああ、これでいい」

 

 クリーヴはそう応え、てきぱき支度を始める。

 

 遠慮も躊躇(ためら)いもなく亜麻布(リネン)の寝間着を脱ぎ捨てるクリーヴに少女はギョッと蒼い眼を見開いた。そして深く嘆息し、頭痛でもするように額に手を遣って目を逸らす。

 

 ……文句は言うまい。この龍人種にそういった心遣い(デリカシィ)を期しても無駄だと既に学習済みである。

 

「よ、読ませて貰った本じゃがな……中々に面白かったぞ」

 

 なんとはなしに気まずくなった少女は『そんなの全然気にしてないよ!』とばかりに平静を(よそお)うとし、なんと自分からわざわざクリーヴに話しかけた。残念ながら全然装えてない。それでも少女はその事実に気づけぬまま先を続ける。

  

「ちゃ、着々と文明が進歩しとるな……特に "開かれた死霊術"。三〇〇年近く要したとは言え、それでも宗教的圧力・弾圧に屈せず学理が学理として認められたのは大きな進歩じゃ……とは言えそれが結果として霊機兵開発に繋がる一因となり、戦争が次なる局面に進んでしまったのは残念じゃが……しかしそれはそれで詮無きことか。世の常よな」

 

「む。すごいな。たった一晩でそこまで読み進めたのか」

 

「ふふん。舐めるなよ、龍の小童(こわっぱ)。この程度、造作もない」

 

「ほう」

 

「これなら講義にも期待できそうじゃ……基礎学術的な面から応用展開に至るまで、儂が厳しく評価してやろう」

 

 そう、少女にとって確かにそれは楽しみの一つだった。やはり本だけでは物足りぬ部分もある。獣人種を主とするブレヴディル王国が最高学術機関の一つ、ここグランレーファ総合霊術学院の講義なら、自分を楽しませてくれるに違いない。

 

 少女は一晩読み(ふけ)っている内に、そんな期待を胸に抱いていた。

 

「よし、では行くか」

 

「うむ……ってなんじゃその恰好?」

 

 これまで目にしたクリーヴの衣類は二つ。黒皮の詰襟制服、先ほど脱ぎ捨てた亜麻布の寝間着、それだけだ。

 

 だが、今クリーヴが着ているのはどちらでもない。

 

 麻で織られた半袖の上衣(トップス)、丈の短い下衣(ボトムス)

 

 何やら妙に動きやすそうな恰好だ。とてもこれから勉学に励む姿とは思えない。

 

「なにと言われてもな……この通り、ただの訓練服だが」

 

「はあ?」

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