結晶少女 15
その者にとって、目の前の光景が偶然とは到底思えなかった。
なるほど。道理で応答がないはずだ。完膚なきまでに打ちのめされている。
肉人形。その者の眼前に残骸を晒していたのはあの肉人形だった。
黒い肉は溶け、液状と化している。奇妙なことに、溶けた肉の下に骨格はなく、ただ純粋に肉だけだった。
いや――ひとつだけ違う。肉以外の物があった。
あの晶球……霊石砲から放たれた蒼気により粉々となった、赤と橙が絡みつく晶球。その破片。溶けた肉で靴が汚れるのも気にせず、その者は一番大きい欠片を手に取る。
それを額にかざし目を閉じた。
瞬間、視界が切り替わる。肉人形がその者に作られ、この "忘れられた森" へと放たれてから今日に至るまでの記憶。
雑音が酷い。あまりにも断片的だ。これでは何が起きたか把握するのは難しい。
己の力が未熟な証拠だ。実に気に喰わないことだが……まだまだヤツとの間には差がある。それは事実だ。だからこそ……自分は……。
突如。その者が嗤い出した。あの肉人形のそれにどこか似た、薄気味の悪い嗤い。見ようによっては苦しそうに……狂おしそうに、時々ヒュウヒュウと息を吸う。
その者の目には、蒼き光の粒と化した結晶少女とそれを取り込む<白鋼>が映っていた。