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幻蒼物語 ~ファンタズマブル~  作者: K. Soma
第一部 無限の断絶
10/83

結晶少女 09

「む。こんなところか」

 

 瓦礫の撤去がほぼ終わった。残すはクリーヴ個人ではどうにもならぬ大きな岩だけだ。こちらは霊石砲を使ってどけるとしよう。

 

『おぬし、これからどうするのじゃ』

 

「脱出し仲間と合流する。それだけだ」

 

 それだけで済めばいいが……しかし、そうならぬ恐れ(リスク)がある。

 

 あの謎の魔物……蠢く闇。奴は今、どこにいるだろうか?

 

 あの爆発により、崖から落ちたのは間違いない。

 

 だがその後はどうだ? 自分は落下の衝撃で地盤が崩れ、さらにこの地下空洞まで転落したが、果たして奴は?

 

 もしかしたら同様に地盤の崩壊に巻き込まれ、付近にいるのかもしれない。その逆に崩落を免れ、スピットに再度襲撃を仕掛けた可能性もある。

 

(それは最悪の可能性だな……)

 

<白鋼>(しらはがね)を使役して結果は痛み分けだったのだ。戦力が減った状況でどうにかなるはずがない。

 

(早いところ合流できればいいのだが……)

 

 スピットが無事なら、アイツもアイツで何か手を打っているだろう。とにかく今は無事の再会を願い、自分にできる最善(ベスト)を尽くすのみだ。

 

 クリーヴはそう結論づけ、霊機兵に這入り込もうとする。

 

 だがその前に、

 

「……お前はどうするのだ?」

 

 一つだけ、訊いておきたいことがあった。

 

 この少女……結晶に封じられた少女……()()()()。彼女が何者かは今もってさっぱりだが、それでも敵でないのは確かである。

 

 少女の存在に、行く末に、興味混じりの後ろ髪を引かれる思いがあった。

 

『……ふん。この状態で何ができようものか』

 

「それもそうだが……しかし、外に出たくはないのか?」

 

『これは(わし)が自らに課した罰……果たすべき贖罪じゃ』

 

 余計な気遣いは無用――それっきり少女は黙した。

 

「……そうか」

 

 やはりクリーヴにはわからない。結晶少女の何もかもがわからない。

 

 だが少なくとも彼女が何も求めてない以上、自分にすべきことがないのは確かだろう。

 

 そう結論づけ、クリーヴは<白鋼>に乗り込んだ。刺突剣(レイピア)を抜き、霊機兵の内部に設置された鞘状の台座へ差し込む。刺突剣の宝石が白く発光した。

 

 この宝石、正式名称は "魂石(こんせき)" という。ファンタズマブルの民の誰しもが産まれた時、額に持つ石だ。石の系統は父親からの優性遺伝で決まり、クリーヴの場合、深い赤に幾筋もの白曇を巻いた赤虎目石レッド・タイガーズ・アイである。

 

 魂石は霊術発動の制御装置(コントローラ)の役割を担い、霊石砲使用可能な霊機兵――第二世代霊機兵の使役士は皆、霊子回路作動のため、魂石を摘出し武器などに取りつけるのが常だった。

 

 そのような魂石を取りつけた武具は "魂具(こんぐ)" と呼ばれる。

 

(そういえば……)

 

 霊機兵と神経接続を果たしたクリーヴは、<白鋼>の死せる魔物の目で、もう一度結晶少女を見遣った。

 

(コイツには魂石もないのだな……)

 

 周りに魂石摘出済みの者が多いため気づくのが遅れたが、確かにそうである。黒い前髪の隙間から覗き見える額はまっさら、何もない。魂具作成者特有の薄い摘出跡もなかった。

 

 普通、使役士でもないのに魂石を摘出する者はまずいない。スピットでさえ、使役士を目指した過去があるから摘出済みなだけで、本来調律士に魂具は必要ない。むしろ摘出は様々な歴史的背景や宗教的理由により、第二世代霊機兵の台頭から十数年を経た今でも、一部の古い人々には忌避される向きがあるくらいだった。

 

(魂石がない……つまり…… "人" ではない……?)

 

 クリーヴの頭に疑問がよぎる。しかし、すぐさまそれを振り払った。

 

(考えても詮無きことだな……彼女は彼女だ。敵でもない。味方でもない。ならば俺には……関係ない)

 

<白鋼>の起動が完了した。霊子回路の同期も取れた。

 

 クリーヴは騎槍(ランス)状の霊石砲を手に取り、その切っ先を自身の下半身を封ずる岩に、柄の先端を地につける。

 

 弾倉が強い黄光を発した。黄光。物質の生成・錬成を司る黄属性霊術。

 

 騎槍が伸びる。今回は鋭さを重視した伸びではない。むしろ逆。単純(シンプル)に太く丈夫な鉄の棒。岩を退()け、下半身を引き出す空間(スペース)を作るための、つっかえ棒。それだけの役割。

 

(よし)

 

 問題なく抜けた。クリーヴは岩壁に手を遣り突起を掴む。

 

 成人男性二人ないし三人にも及ぶ霊機兵が立ち上がった。この広い地下空間はそれでもなおゆとりがある。

 

 損傷は軽微ではない。特に下半身はズタボロ。第二世代霊機兵は霊子回路のみならず、機体の筋肉・骨格構成も可能な限り使役士に似せるのが()とされる。従って、クリーヴ同様<白鋼>もまた、長く強靭な尾を有するが……その尾は今や、装甲ごと千切れ掛かっていた。

 

(だがまだ動く……問題ない)

 

 クリーヴは再度騎槍を手にし、伸ばしていた鉄棒箇所を分離する。

 

「む」

 

 予期せぬことが起こった。

 

 岩は微妙な平衡(バランス)の上にあったらしい。騎槍が外れ、元の位置に戻ると思いきや……そこを通り過ぎ、向かい側の岩壁にめり込む。

 

 岩壁の一部が崩れた。()いでその周りが連鎖的に崩壊。仕舞には天井が崩落してきた。

 

 瓦礫と砂塵に混じり、現れたのは……()()()()()

 

「……まったく、今日はツイてない」

 

 クリーヴは速やかに戦闘態勢に這入った。

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