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03

目の前に突如現れた女性が口裂け女と認識するまでのコンマ数秒。

僕にはなんとも言えない違和感を感じた。

教室内で東城から見せられた写真と容姿が違うのだ。



口裂け女と言えば全身赤でコーディネートされた服装や、白いコートを羽織っている姿が一般的な容姿として今日まで伝わってきたし、現に見せられた写真に写っていた口裂け女は都市伝説通りの姿だった。


目の前に現れた口裂け女は一般的に伝わっている容姿とはまるで違う。


赤黒く汚れた着物を羽織り、地面まで伸びた長髪。

伸びた髪の隙間から除く生気を感じない眼。


耳元まで切り裂かれた口だけがこの怪異が口裂け女である事を暗示していた。


「ポマード! ポマード! ポマード!」


東城の声が響き渡った。


口裂け女と思わしき怪異は、本来弱点となるはずの言葉に全く反応がない。

東城は続けさまにべっこう飴を口裂け女に投げつけたがまたもや反応がない。


口裂け女は生気を感じない乾いた眼で僕らを見つめている。


東城は慌てて僕の後ろに隠れる。


「なんで効かないの!?」


東城は僕に対して問いかけるが、僕もそれどころではない。

弱点が多く知られている怪異故、慢心とまでは行かないが遭遇出来ても対処出来ると踏んでいたが、目の前にいる口裂け女は僕らの知っている口裂け女ではない。


「―ワタシ...... キレイ......?」

有名なフレーズが聞こえてきた。


東城は対処法である模範解答を口に出そうとしたが、僕は彼女の口を塞ぎ答えを遮った。そうした方が良いという直感故の行動だった。


賭けに等しい愚行を行った筈の僕らに対し、口裂け女は僕らの問いを待つ事はなく、踵を返して僕らの前から遠ざかっていった。


彼女が佇んでいた地点に、血で赤く染まった裸足の足跡が残っていた。


時間にしてわずか数分の出来事だが、今回の依頼が一筋縄では行かない事を理解するには十分だった。





僕達はそそくさと事務所へ帰還。

先刻の出来事についての情報整理を行う事となった。


「帰りが遅くなると思うけど、大丈夫か?」

「父に今日から暫くは帰らないって伝えているから問題無し!」


何度か彼女は僕の事務所に泊まり込む事があったが、年頃の娘が暫くは家に帰らないと宣言しても、小言一つ言わず許可してくれる心の広い父親だと僕は毎回感心している。



目に入れても恐らく痛くない可愛い娘がそんな不良みたいな事言ってきたら僕だったら泣いちゃうね……

というか絶対に許さないだろう……


もしかしたら血の涙を流しながら娘の外泊を許可しているのかも知れない。


事件が解決したらお詫びに伺う事に決めた。



「お風呂ありがとう」


彼女の宝石の様な黒髪に更なる憂いを感じさせる水滴の残り。


血色よく熱った頬。


予め常備されていた自身の部屋着を纏った彼女は、とてもじゃないが健全な一般男子高校生には直視する事が出来ない。


僕は彼女から目を逸せながら、口裂け女について感じた違和感を彼女に語り始めた。



「―都市伝説の怪異は語り継がれる地方によって容姿や弱点に違いが発生する事はよくあるんだ……」


「でも怪異を形作る大元である情報は本来どの地域でも大きな差異は無い筈なんだ」


僕の持論だが、妖怪や都市伝説は弱点と呼べる何かを有していなければ語り継ぐ事は難しいと考えている。


人は対処出来ない恐怖は語り継げない。言葉にするのも悍ましいからだ。


怖いが対処出来る。助かる術が存在する事が怪異には必須なのだ。


だが今回遭遇した口裂け女と思わしき怪異は弱点や対処方があるかは不透明だ。


僕らは偶々助かったに過ぎない。



「つまり! 明日からこの口裂け女事件について色々調べ直すって事ね!」

「おやすみ……」


東城はそう言い残し、事務所ソファに寝そべり、即寝息を立て始めた。


僕としてはもう少し遭遇時に感じた違和感などについて語りたかったが、聴き手が寝てしまったらやりようがない。



寝息を立てている東城にブランケットを掛け、僕も椅子の上だが睡眠を取ることにした。

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