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『口裂け女』


恐らく日本で一番有名な都市伝説の一つだろう。


一九七九年春頃に日本で流布され、社会問題となるまでになった都市伝説であり、また急激に人々の関心が離れていった都市伝説でもある。


マスクをした若い女性が学校帰りの児童に「私、綺麗?」と訪ねてくる。

「綺麗」と返すとマスクを外し、耳元まで裂けた口を見せつけ、「綺麗じゃない」と答えると包丁や鋏で切り殺されてしまうと言われている......



東城はこの街に口裂け女が現れたと言うのだ。



「とりあえず『カマツカサービス』にいきましょう」

「そこで詳細を話させてね」


彼女は帰り支度を始める。

西日の傾きが強くなった教室を僕と東城は後にした。



僕と東城が在籍している私立唐津美からつみ東高校から、徒歩十五分ほどの商店街内の雑居ビル五階に両親が設立し、僕の住処でもある『(有)カマツカサービス』は事務所を構えている。


僕が事務所の鍵を取り出すより早く東城は合鍵を取り出し事務所内に入っていった。


「お邪魔しまーす!」

東城は事務所の照明をつけてまわる。


事務所内は母が過去に収集した怪異談にまつわる資料などが乱雑に積まれていた。


比較的片付いている来客用の応接間に僕と東城は腰を落とした。


「―口裂け女がこの街に再び現れたみたいなの」


教室で聞かされた一報をもう一度繰り返し、東城は応接間に飾ってある十年程前になる色褪せたカレンダーに目をやりながら今回の事件について語り出した。


「例の事件の翌日である水曜日、市内の中学生が深夜に選挙ポスター掲示版の前を彷徨く口裂け女らしき人影を見たとSNS内で呟いており、口裂け女を映したと思わしき画像が中学生を中心に出回っているの......」


そう言って彼女は僕に噂となっている画像を見せてきた。


深夜に撮影されたということもあり不鮮明な画像ではあるが、街灯下に照らされている女性の横顔に映る口は耳下まで裂かれているようにも見える。


「よく撮影しようと思ったな......」


僕は正直な感想を口にした。


「そうだよね......私もそう思う」



写真を撮影した中学生がどのような心境だったかを理解する事は難しいが、「写真に収める」という行為が事態を悪化させる原因となっているのだ。



都市伝説は『比較的近代に発生した、根拠が曖昧で出所が不明な口承される噂話』とする怪奇談の一種である。


「都市伝説は『口承される噂話』であるから内容は曖昧で揺らぎがあり、結果的に怪奇談としての強度を落としていると前に話していたよね?」


東城は席を外し、窓を開け室内の換気を行いながら話を進めていく。


「今回は口承される噂話に写真という噂を補強する要素が追加された事が、事態の急激な悪化に繋がると予測して、父より今回の調査依頼が一尺八寸かまつか君に来たってわけ」


「もうすでに市内の幾つかの学校では口裂け女の噂話が上がり始めているの」


「このまま放置していると被害者が出てしまう...... 口裂け女の都市伝説はこの街を超えて、瞬く間に全国に広がってしまうわ」


「―この依頼、受けてくれるよね?」


彼女の依頼を僕は断った事が無いのに、彼女は律儀に毎回聞いてくるのだ。



「がんばります!」


僕は間髪入れず返答した。

此方にも生活が掛かっているのだ。



東城と共に、事件の発端となった現場へ向かう事となった。

事務所から徒歩十分程の距離に被害にあった選挙ポスター掲示板が設置されていると彼女から聞かされた。


現在僕の住んでいる市では市議会議員の辞職に伴う補選真っ只中であり、現場以外にも多数の選挙ポスター掲示板が設置されている。


問題の選挙ポスター掲示板は線路沿いの小道に、街頭に照らされながら佇んでいた。


選挙ポスター掲示板の隣に設置されている看板も同様の被害にあっている。


看板は事件以降そのまま設置され続けているようだ。


切り付けられた候補者のポスターは既に新しいポスターに張り替えられているが、ポスターの下には刃物によってつけられたであろうキズがうっすらと透けていた。


「犯人は証拠を現場に残すとよく推理小説では書かれているけどね......」


そう言いながら東城は掲示板周りをスマホで撮影し始めた。


僕は周りを見渡しながら相槌を打つ。


数分に一回私鉄が通過していく中、僕は東城に確認の意味も込めて質問を投げた。


「口裂け女の弱点は知っているよな?」


「もちろん!『ポマード』って言葉と、あとはコレっ!」


東城は自信満々に答え、僕にべっこう飴を手渡した。




口裂け女をはじめ、都市伝説として語り継がれる怪異には『弱点』が多く存在する。


『根拠が曖昧で出所が不明な口承される噂話』である故に、この怪異に遭遇し、命からがら逃げ切ったかは不明だが、一連の出来事を語れる人物がいないと都市伝説は成立しない。


それ故に都市伝説には対処方法や弱点が多く存在するのだ。


口裂け女の場合は『ポマード』という言葉とべっこう飴がポピュラーな対処法となる。


地域によって更に弱点などが存在する場合もあるが、基本はこの二つで乗り切れるとされている。



東城が再び証拠を探そうと掲示板に眼を向けたその時、



口裂け女が眼前に現れたのだ。


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