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異世界で弁当売ってハーレムを

 かくして幕ノ内弁当により署名運動は遙か忘却の彼方に葬られた。

 女冒険者たちは男冒険者たちと共に弁当を買うようになり、不買や圧力はなくなった。


 道具屋とはうちから弁当を卸すことで話がついた。

 酒場も異世界料理のレシピをいくつか教えて手打ちとなった。


 最後まで残った問題は「豆の生産農家」だ。


 ブレロー商会は農家に正式に取り引きの停止を宣言した。

 さらに道具屋も、俺たちと和解するや農家に縁切りを通達。


 取引先を失っては仕方ない。

 一家心中を図ろうとした生産農家。

 それをお義兄さんと協力してなんとか止めると俺はとある提案を持ちかけた。


 大豆とその加工食品の生産だ。


 豆乳。

 おから。

 そして、豆腐。


 大豆食品は元いた世界でもかなり大きな市場。

 上手くやれば農家として起死回生できる。

 弁当屋としても手間のかかる大豆の加工を手伝って欲しかった。

 全面バックアップを約束し、豆の生産農家はなんとか一家心中を思いとどまった。


 かくして最悪の事態は回避された。


 オヤジさんは無事お爺ちゃんになり。

 俺は叔父さんになり。

 ミラは叔母さんになった。


 俺たちは今日も平穏な異世界弁当屋生活を続けて――。


「なんでよ! なんでみんなアンタの弁当を食べだすのよ! 不買運動と村八分で店を潰せると思ったのに!」


「そういうのあっさりゲロるのがお前のダメな所なんよ」


 そうそう。

 最後にチョコの話が残っていた。


◇ ◇ ◇ ◇


 店を潰すのに失敗したチョコは、女冒険者と酒場・道具屋から「変なことに巻き込んで」と恨みを買って自滅した。署名運動が巡り巡って自分に返ってきたのだ。


 まさに自業自得。

 この町でチョコをかまう人間はもう誰もいない。


「というか、お前はなんでこんなことを」


「……それは!」


「別に俺のことなんて無視すりゃよかったじゃねえか」


「……それについては俺から説明しよう」


「「誰⁉」」


 言い争いにしゃしゃり出てきたのはリゾットさん。

 彼は珍しく――その手にナイフを握っている。


 まるでアサシンみたいに。


「お前の元雇い主チョコ・ブラウニーは、パーティーを解散して現在フリーだ」


「フリー?」


「パーティーに所属していない冒険者という意味だ」


「……え? そうなの?」


「……そうよ。何か文句ある」


 リゾットさんの説明によると、俺がパーティーを抜けてすぐチョコのパーティーは追放もののテンプレみたいに機能不全に陥った。

 やはり男手はあのパーティーに必要だったのだ。


 俺を理不尽に追い出したことで危機感を覚えたのだろう。

 メンバーは次々にパーティーを離脱。チョコは新しいメンバーを募ったが、俺の追放話が広まり誰も手を挙げようとはしない。

 やむなくパーティーは解散。


 ようは逆恨みだったのだ。


 それだけならよかったんだが――。


「……たび重なる依頼の失敗、パーティー解散申請の遅れ。諸々で、その女は冒険者ギルドに違約金を発生させている」


「借金ってことですか?」


「……まぁ、そうなるな。複数の金貸しから融資も受けているらしい」


「なんでそこまで?」


「魔法使いは維持費がかかるの!」


「……ギルドの違約金も返済できない。個人の借金も膨大。定職につく見込みもない。そういうわけで、ギルド上層部から面子にかかわると強制執行の命令が出た」


「「強制執行⁉」」


 物騒な単語と共にリゾットさんが腰を落とす。

 ナイフを構えればその肩から気炎が昇る。


 間違いない。

 これはガチの戦闘態勢。


「冒険者ギルド【駆除チーム】のリゾット。上層部の命令により、魔法使いチョコ・ブラウニーを【駆除】する」


「駆除ってそっちの意味もあるの⁉」


「お前の身体では娼館勤めは難しかろう。臓器を売って返済するしかない。安心しろ。苦しむ瞬間もなくあの世へ送ってやる」


「待った待った待った! ちょっと待った!」


 俺をさんざんコキ使い、理不尽にパーティーから追い出し、挙げ句の果てには難癖をつけて商売を潰そうとしたチョコだが――流石に死なれるのは嫌だ。

 俺はリゾットさんの前に出ると地面に頭を擦りつけた。


「どうか命だけは勘弁してやってください! 言うほど悪い奴じゃないんです!」


「……ジェロ!」


「なにとぞ温情を!」


 戸惑うリゾットさん。

 自分は微塵も頭を下げる気のないチョコ。

 なぜか元雇用主のために額を地面に擦りつけている俺。


 なんだなんだと駆けつける嫁と愛人と愛娘。

 騒ぎを聞きつけた冒険者たち。


 こんなに注目されたら白昼堂々の殺人とはいくまい。

 リゾットさんが「……むぅ」と唸ってナイフを引っ込めた。


「……まぁ、冒険者ギルドとしては違約金を払ってくれれば構わないが」


「分かりました。それじゃ俺が立て替えます」


「……本気か?」


「ミラ! 金庫からお金を出して!」


 金貨数枚と銀貨数百枚。

 提示された違約金をきっちりとリゾットさんに渡すと、俺は「これでよろしくお願いします」と深々と頭を下げる。


 リゾットさんが黙り込む。

 だが、最後はいつものように口の端を釣り上げた。


「……分かった。上層部には俺から連絡しておく」


「ありがとうございます!」


「……お人好しもほどほどにしておけ。だが、お前らしいな」


 そんな言葉と共にアサシンは音もなく姿を消した。

 残されたのは店の稼ぎの大半を性悪女のために差し出した間抜けな男。

 そして、さんざんバカにした男に助けられた紫髪のメスガキ。


「ジェロ、私のことを庇ってくれたの?」


「まぁ、しょうがないだろ」


「どうして? 私、貴方にひどいことしたのに!」


「俺が冒険者になりたての時、声をかけてくれたし」


 だからそのお返し。

 ――で、済ますには、払った額がでかい。


 男らしくないが、金の話はおざなりにはできない。

 俺は立ち上がるとクソ生意気な元雇用主の肩を掴んだ。


 びくりとその小さな身体が跳ね上がる。


「流石にこれだけの大金をくれてやるわけにはいかない。あくまで肩代わりだ」


「……うん」


「お前は定職に就いてない。貸した金が返って来るアテもない」


「……分かってる」


「もう冒険者はやめろ」


 それより、もっと割りの良い仕事がある。

 俺は深呼吸して、チョコに言った。


「俺の店で働けチョコ。ちょうど、従業員を雇おうと思っていたんだ」


「それってつまり――」


「そうだ、つまり――」


 ここまで言えば魔法使いなら分かるだろう。

 察してくれて助かる。


「お前に、俺の奴隷になれってことだ!」


「私に、ジェロのお嫁さんになれってことね!」


 いやなんでそうなるねん。

 脳味噌お花畑か。


 なんでお前のような紫髪クソメスガキと結婚しなくちゃならんのだ。

 罰ゲームかよ。冗談は自分がやらかしたことを反省してから言え。


◇ ◇ ◇ ◇


 以上。

 異世界に転移して弁当屋をはじめた俺の顛末。


 いや、顛末というにはまだ早い。

 俺の異世界弁当屋ははじまったばかりだ。


 だが、今だけはゆっくりさせてくれ――。


「風呂ができたぞ! 温かいお湯につかれる風呂が!」


 そこそこ溜まった弁当屋の儲けで俺は家の庭に個室風呂を建造した。

 やっぱり、異世界転移したらお風呂を作るのが大正義だよね。


「とはいえ、井戸水を汲んで湧かしているんじゃ、入れる回数に制限があるよな。やはりどっかから水源を引っ張ってこないと」


 石造りのドーム状になった浴室。

 真ん中には檜づくりの浴槽。深さは膝の高さ。広さは軽く六畳間くらい。

 外で温めたお湯がそこに流れ込む簡易な仕組みだ。


 肩までお湯につかれるのはこの世界に来てはじめてだ。ついついテンションが上がった俺は、そのままどぷりと頭までお湯の中に潜り込んだ。

 あぁ、温いお湯に身体がとろける――。


「ぷはっ! これだよこれ! これがお風呂の醍醐味だよね!」


「どれどれ? どれが醍醐味?」


「そんなはしゃいで、子供みたいやなジェロはん」


 濡れた前髪を後ろに撫でつけて顔を上げる。

 風呂の入り口。開けっぱなしの扉の前。そこに二人の美少女が立っていた。


 一人は17歳とは思えぬナイスバディ。

 赤いショートカットが愛らしく、お椀型の豊満な胸がたまらない。

 俺の愛する嫁のミラ。


 一人は、濡れ羽鴉のおかっぱ頭に狐耳。

 イカ腹すってんどん。小学生か中学生にしか見えない合法ロリボディ。

 俺の頼れる愛人のキャンティ。


 二人は腕に手ぬぐいをかけて全裸で風呂場の入り口に立っていた。


 うぅん――。


「二人とも、どうしてここに⁉」


「決まっとるやろそんなの!」


「なんか面白そうだから一緒に入りに来ちゃった!」


「入りに来ちゃったって!」


「別にええやないか、男女別に入る決まりなんてないやろ?」


「……しまった、ここは異世界だった」


 お風呂は男女別という概念がないのだ――!


 恥じらうより前に二人が浴槽に入ってくる。

 ざぷんと湯船を揺らして中に飛び込むと、キャンティが左から、ミラが右から俺の身体を挟み込んでくる。


「ジェロ。このお風呂っていいね。一緒に入るといろんなことができそう」


「いろんなことって⁉」


「ジェロはん、もしよかったら身体を洗ったろか? しもた、海綿を持ち忘れた。これはウチの身体で清めるしかあらへんな!」


「風呂の文化が光の速さで進化している!」


「ずるいー! ペコリーノもはいるのぉ!」


「「「ぺ、ペコリーノだと!」」」


 我が家の二大ロリに気を取られ、後ろに控えていたガチロリ(異世界でも案件)に気がつかなかった。


 白いドレスを脱ぎ捨てた幼女がとてとてと床を駆ける。

 金色のふわふわの髪が輝いたかと思えば、次の瞬間彼女は浴槽に飛び込んでいた。


 そして、俺の胸の上に容赦なく落下する。


 ――ぐふぅ!


「ふわぁー、あったかぽかぽかなのぉ」


「ペコリーノ。入る時は、もっとゆっくり入ってね」


「はぁい! あっ、ぱぁぱのおしべさんだぁ!」


 そんでもって迂闊なこと言わないで。


 そりゃそうですよ。

 肉体関係「アリアリアリアリアリーヴェデルチ!」の女性三人に一度に迫られたら、元気いっぱいになっちゃうのは仕方ありません。


「あら、本当」


「ジェロはん。こんなんなる前に言うてや」


「おしべさん、きょうもげんきですかぁ?」


 三者三様の反応を見せる俺の女たち。

 はたして、この関係をいつまで続けられるのか。

 店が潰れるのが先か、女性関係が拗れに拗れて刺されて死ぬのが先か。

 心臓に悪い異世界転移だ。


 けれども――。


「お風呂はそういう場所じゃありません。はい、肩までつかってしっかり温まる」


「「「はぁい!」」」


 俺に協力的な彼女たちとなら、意外とどうにかなるのかもしれない。

 なんて楽観的に思うのだった。


「あと、チョコさーん! しっかり温度調整してね!」


「なんで私がこんなことを! 私だって、ジェロと一緒に……!」


「借金返すまでは俺に絶対服従でしょ?」


「絶対服従⁉ それってもしかして……!」


 あと、なし崩しで一緒に暮らすことになった住み込み従業員のチョコも。


 この四人と俺でどうにか弁当屋をやっていけたらな。

 このちょっと倫理観がおかしな異世界で幸せな人生を送れたらな。


 そんなことを俺は湯船につかって願うのだった。


【了】


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 ここまでおつきあいくださり「アリアリアリアリアリーヴェデルチ!(さよならだ!)」――じゃなかった「ありがとうございます!」。少しでも楽しい時間を過ごしていただけたなら幸いです。


 まだまだジェロの弁当作りは続きますがここでいったんおしまいです。

 今ちょっと他の作業が忙しいため手をつけられませんが、手が空いて続きが仕上がったら短期集中で連載したいと思っておりますので、どうぞその時はよろしくお願いいたします。


 よろしければ、最後に評価・フォローよろしくお願いします。m(__)m

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