~ 第二章 非日常 ~
いつもと違う雰囲気の裏通りに違和感を覚える。なんというか、禍々しい雰囲気が漂っている。
「なに・・・これ・・」
裏通りの奥には見たことのない車が停まっている。よく見ると本らしきものが陳列されている。いわゆる移動図書館という類に入るであろうものだった。しかし、お世辞にも綺麗とは言えなかった。陳列されている本は古いものばかりで、中には埃をかぶっているものもある。こんな本誰が借りるのだろうか。そう思いながら眺めていると後ろから声がした。
「お嬢ちゃんにはうちの店が見えるんかい。」
振り向くと年老いた老婆が立っていた。曲った腰に深くかぶったローブのフード。右手には杖を持っていて、不敵な笑みを浮かべている。その容姿は一言で例えるなら魔女という言葉がふさわしいだろう。
「店が見えるって、どういうこと?」
「この店は本が人を呼ぶんだよ。」
本が人を呼ぶ?どこかのファンタジー小説じゃあるまいし。
「悪いけど、本に興味ない。」
「そうかい?でも、目線はその本から外せないようだねぇ。」
あれ?おかしい。あのおばあさんに向かって話しているはずなのに、なんで本を見ているの?
「な・・んで・・・?」
「その子があんたを呼んだんだよ。運命ってやつだね。」
おばあさんは甲高い声で笑うと私にその本を手渡した。赤い表紙の古ぼけた一冊の本だ。
「これも巡り合わせだ。普段だったら金をもらうが、その本はあんたのことを相当気に入ってるみたいだからタダでやるよ。」
「え、ちょっと!こんなのいらないよ!」
無理やり本を押し付けられたことで、私の手にぶつかり鈍い音をして本が地面に落ちた。
仕方なしに拾おうとしゃがむ。
「もう、こんなのいらないって言った・・・え・・?」
本を拾って顔を上げるとさっきの老婆と移動図書館は忽然と消えていた。もう何が何だかわからない。
「どういうこと・・・?」
残されたのは手渡された本だけだった。こんな本をもらってどうしろっていうの。パラパラとページをめくっていく。どうやら様々な童話を一冊にまとめているものらしい。目次を見ると、赤ずきんやシンデレラ、白雪姫などがあるらしい。少し懐かしい気持ちを感じながら試しに赤ずきんのページを読んでみる。
「今時赤い頭巾かぶった子なんていないし。」
小言を言いながらも読み進めていく。しかし終盤になるにつれて違和感を感じる。
「え、なんで?赤ずきんって、オオカミに食べられておしまいなの?」
オオカミに食べられたおばあさんと赤ずきんは猟師のおじさんに助けられるはずなのに、誰にも助けに来てくれないまま話が終わっている。別の話も読んでみるが、シンデレラは意地悪な義姉妹と王子様が結婚し、シンデレラは奴隷として扱われている。白雪姫では、序盤で女王の使いにより心臓を取られていた。これはつまり・・・
「全部の話がバッドエンドになってる・・・。」
そうつぶやいた途端、本から勢いよく光が放たれた。あまりの眩しさに目を閉じる。そして目を開けるとそこにはたくさんの花畑が広がっていた。信じられない光景に挙動不審になる。すると花畑の向こうで人影が見えてきた。誰かが鼻歌を歌ってやってきている。目を凝らしてみると、赤い頭巾をかぶった女の子がやってきていた。
「まさか・・・赤ずきん・・?」