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学園で一番目立たない俺の読書感想文作家業の秘密が世界一かわいい妹にばれて交換に代筆を頼まれたんだが、いきなり妹が魔王にさらわれた件

作者: すたふぃ

なろうっぽうい作品タイトルを、お遊びで考えていたら、お話をつけたくなりました。半日ほど文章を打ちました。

なにしろ、物語を作ることがほとんど初めてでして、荒削りすぎてもう形もない作品でお目汚しを失礼します。お話に、なろうな要素は入っているのかわかりません。そもそもこの作品はどんなジャンルなんだろうと投稿時に縄んだ次第です。




「ねえ、お兄ちゃんは、わたしの読書感想文を書くためにこの世に産まれてきたの!」

「そんなバカな。」


 夏休みもあと数日で終わり。ほぼすべての全国の小中高校生にとって夏の宿題という怪物と対峙する魔の季節。突然俺の部屋に乗り込んできた妹ハルカの要求は「読書感想文」の代筆だった。


「お兄ちゃん。そこをなんとか!」

「5000円。」

「まさか、実のかわいい妹からお金巻き上げるの?」

「うるせー、俺は、日本中から依頼があって忙しいんだよ!」

「お母さんに、こっそりお小遣い稼ぎしてるの、ばらすわよ。」

「俺は高校生だぞ、夏休みバイトの一つや二つして当然だろ。」


 最愛の妹、中学二年生のハルカは何か言いたげにこちらを見つめた。

 俺の名前はコウイチ。どこにでもいる高校生だ。このネットの時代において読書感想文の代筆をしている。全国から依頼が殺到するが頼んでくるのは感想文が書けない子ではない。その8割はお受験に忙しく本の一冊も読む暇がないという受験生の親だ。せちがない世の中である。

 だが、俺が特別なのは俺が全国から引く手あまたな代筆屋だからではない。


「お兄ちゃん、感想文書くのに一日中部屋にいるわよね。」

「もちろん。忙しいし、自分の宿題はとっくに終わらせているからな。」

「昨日の午後、お兄ちゃんの部屋は誰もいなかったわよ。」

「……。」

「どこに行っていたの?」

「それは…。」

「あのね、わたし、見ちゃったんだ。お兄ちゃんが本の上に手を置いて、そしたら本が光って、お兄ちゃんが消えちゃうの。」


 俺はすーっと背筋が寒くなる。さすが俺の妹の観察力。あなどれない。動揺を見破られてはいけない。


「そんなことあるわけないだろう。見間違いだ。」

「いいえ、なんなら動画もあるわよ。わたしとお兄ちゃんのフォロワーに公開してもいいけど?」


 やばい。俺たちのフォロワーはあわせて30万人だ。


「それが嫌なら、お兄ちゃんは、わたしの読書感想文を書くのよ。そして執筆風景をわたしに見せる。わたしは、誰にもこの話は言わない。」


「…わかった。」


 畜生。無邪気にガッツポーズなんてしやがって。ナマイキカワイイ妹だ。


「交渉成立ね!ねぇ、お兄ちゃん、お話しはわたしが指定していいの?」

「なんでも良いぞ。知らない本だったら自分で読む。金とってやっているから当たり前だ。あと、何十人に同じような感想文を送ることもしていない。」

「すごい!お兄ちゃんも案外えらいところあるんだ!」


 いちいちリアクションが大きい妹だ。


「じゃぁ、リクエストしようかな。ええと、『やまなし』」

「『やまなし』宮沢賢治のか?」

「うん。昔、読んだことあるけれど、短めだよね。お兄ちゃん想いでしょ?わたし。」

「読んだことあるのか、俺も知っているから話が早い。言っておくが、あれは難しいぞ。」

「そうなの?」

「あぁ、じゃぁ、水着に着替えて俺の部屋に20分後に集合な?」

「水着に? わけわかんないよ。お兄ちゃん変態!」

「『やまなし』だろ?季節をまたぐから着替えもリュックに入れてこい。あと出来れば読み返してこいよ。」


 ハルカは、俺の言葉に押されて、しかし思いっきり怪訝な顔をして部屋を出ていった。


 さて、と。俺もリュックに着替えとタオルをつめて、とりあえず海パンにはき替える。

 宮沢賢治は今から100年以上の昔の、岩手県の詩人・作家だ。『注文の多い料理店』『銀河鉄道の夜』など、今も読み親しまれる作品が多数ある。農村で働く人に想いを寄せ、岩手にイーハトーブという理想郷を想っていた。

 その中でも、『やまなし』は、新聞に寄稿された短編作品であるが、解釈が必要なところもある。

 さて…どうするか。



「お兄ちゃん!お待たせ!」

「おい、おまえ、災害用持ち出しリュックの隙間に着替え突っ込んだのか?」


大きなリュックを背負ったずぼらな妹ハルカが部屋に入ってきた。まぶしいばかりの上下白のビキニ。中2にしては生意気なEカップはわが妹ながら俺の目をくぎ付けにする。


「お兄ちゃん災害用リュックに欲情するのやめて!変態!でわたしはどうしたらいいの?」

「わかった。話そう。俺のやっているのは。」

「やっているのは?」

「作品へのダイブだ。」

「ダイブ?」

「活字媒体の中に入り中から作品を観察する。今回は作品上、川の中に入るから水着で行く。ただ、この作品は5月と12月。後半は寒いから着替えが必要ってわけだ。」

「たのしそう!だから、リアルな感想文がかけるのね。」

「その通りだ。しかし、問題もある。」

 

「実際にはダイブする人のイメージが世界をつくる。今回はお前も行くから、何が起きるかわかない。作品は読んできたか?」

「えっと、水着を久しぶりに出して着たから忙しくて読んでない。」

「…まぁ、いいだろう。それでは力を使うぞ。」

「力、かっこいい!なんか、技の名前有るの?」

「とくにない。じゃぁ、転移中に振り落とされると戻れないから、抱きつくとかしていて欲しい。」

「お兄ちゃん、エッチ!」

「嫌なら連れて行かないぞ?」

 リュックを背負った海パン1枚の俺に、リュックを背負った上下ビキニのハルカが抱きつくという構図だ。妹の素肌はやわらかくてひんやりとして…とやばい。集中しなくては。


「5月の谷川の河原を想像して目を閉じて!」


 俺は、宮沢賢治短編集のやまなしのページを開き、手をかざす。5月の河原を心に思い描くと、本の活字がまばゆい光とともにゆっくり浮き上がり…手に吸い込まれ…手に集められた光がゆっくりと全身を溶かしていく。俺たちは底のない光の穴に吸い込まれていった。そして数十秒たっただろうか…光が元に戻る。



「目を開けていいぞ。」


 俺たちは5月の谷川の河原にいた。青い空の元、川を流れる5月の風が心地よい。『やまなし』は川の中だけで進行する話だ。俺は作品へのダイブはプロだから、行きなり水中にダイブしようが相手が人間でなくても構わないが、ハルカは違う。だから一度、河原を指定したのだ。


「…抱きつくのやめてもいいぞ。」

「えーなんか、こんなの小1の夏ぶりだったから!あの時お兄ちゃん言ったじゃん。家族じゃなかったら結婚できたのにね!って!」

「そんな昔の話よく覚えてるな。もう忘れていいからな。」

「ちゃんと、日記に書いてあるよ!わたし、さっき見つけちゃった!」

「帰ったらそれ絶対捨ててやる。」


 こんな場所で俺の黒歴史なんて、余計なことを考える場所ではない。ここは貴重な読書感想の体験取材場所なのだ。


「お兄ちゃん、これからどうするの?」


 ハルカはさっそくリュックを降ろし、中から何かを取り出そうとしている。気の早い奴だ。


「『やまなし』の話は知っているだろう。これから俺たちは川の底に潜って蟹の子に会う。そして、川の底から上のほうを眺めてみたら何か気づきもあるしな。」


「わかった。じゃぁ、わたし早く、お兄ちゃんとの結婚…。」


 ハルカが、謎の言葉を言い終わるより早く、男の声がそれをさえぎった。


「姫がその男と結婚することはない。なぜなら我のものであるからです!」


「?????」

「?????」


 河原には一人の男が立っていた。全身黒いマントに身を包み。濃い緑の髪の毛。そこから三日月形に湾曲した角が二本はえている。どう考えたって100年前の岩手の世界観じゃない。


「我が名は魔王クラムボン。それでは姫はもらいうけますよ!」


 男は、またたくまに俺たちのところに近づき、唖然としている妹をさらって、次の瞬間には10数メートル離れた、空中にいた。


「お兄ちゃん!」

「さらばだ!城で会おう」


 そして、魔王クラムボンは目の前から消えた。

……これはやばい。

 俺の能力は、そこにいる者の想像力に依存する。『やまなし』において宮沢賢治はクラムボンが何かを書いていない。いろんな説があるが、それは読み手の想像次第だ。

 俺の妹はクラムボンを魔王だと思っていたのか。それなら今の状況はもう作品と、かけ慣れている。


 思い出せ…やまなし。

 そう。この短編は、最初、蟹の兄弟の会話から始まる。クラムボンは…笑って…そして死んでしまう。この後クラムボンは出てこないから妹の中でクラムボンがどんな存在であっても、助け出すならなるべく早くだ。。


 魔王…城…やつは、城で会おう、と言ってたな。俺が関係あるのか?

 俺はリュックから着替えを出して、山林を歩ける格好をした。それから足元に転がっていた妹のリュックを背負う。重い。いったい何が入っているんだ!



 魔王クラムボンの城は、山一つ越えたところにあっさり見つかった。普通は作品の場所の距離感なんて想像しないから当たり前か。堀に囲まれた西洋によくある石積みの構造物。左右に塔がある。入り口は、正面にかかる木の橋を通っていくしかない。外敵の侵入時に城側に鎖でひきあげるタイプだ。

 橋を通り城の入り口をくぐる。背後でゆっくりと橋がひきあげられ、入り口の扉が閉まる音がした。どうやら自動ドアってわけではなさそうだ。帰るときは強引にいかないと。


「クラムボン!妹を返せ!」


 城内は静まり返り、返事は聞こえない。俺は、外から見た城の構造を思い出す。奴は妹のことを、姫と呼んでいたな…であれば、物語のセオリーというやつだ。幽閉されているのは…塔!

 俺は塔に上がる階段にまっすぐ突き進む。螺旋階段をぐるぐる上がり、その突き当たりの小部屋の扉の鍵は…かかっていなかった。


「ハルカ!」

「お兄ちゃん!」


 綺麗に掃除が行きとどいた空間。そのベッドにハルカは腰掛けていた。着ているのはピンクのフリフリのドレスだ。


「あれ?その服は?」

「魔王が魔法で出してくれた。案外良い人よ?あの人。」


「おい、こんなの宮沢賢治の話にないんだぞ。俺の力は話の最後まで行かないと世界から出られない。早く元に戻さないと帰れないぞ。」


「わかった。魔王を倒すのね?」

「察しが良いな。だいたい、こーゆーのは魔王の魔力でできてるんだ。倒したら脱出だ。」


「そうはいきませんよ。姫、威勢のよい客人をお招きですね。」


 部屋の入り口に魔王が立っていた。指先で白い光の球をもてあそんでいる。あれが当たったら痛そうだ。


「我の物語には、まだ姫しか出てきません。残りはすべて侵入者です。」


「お兄ちゃん!私のリュック!」


 ハルカのリュックに中も見ないで手を突っ込む。棒のようなものに触れた。


「なんだこれは…あっ…」


 棒状のものをつかに見立てて構えて集中すると、ぶおん、と音がして光の帯が剣状にのびる。

 昔SF映画にあったのを買ってもらったおもちゃだ。


「ハルカなんでこんなもの入れてるんだよ!」

「もともと災害用非常用持ち出しリュックだし!とにかく、今はそれで!」


「いくぞぉっっ!」


 先手必勝!俺はすばやく魔王のふところに飛び込み夢中で斬りつけた!

 光の剣は何の抵抗もなく魔王の体を突き抜け…そして魔王の姿は音もなく紫の霧となって、溶けて消えた。


「思ったよりあっけなかったな。何か城に変化は?」

「なんにもないよ。扉も橋もそのまんま。」

「まだ、何か仕掛けがあるのか、調べてみよう。」


 二人で入り口のある城の大広間に戻る。しかし、扉は固く閉ざされたままだ。


「しかしなぁ、おまえ、本気でクラムボンを魔王だと思っていたのか?」

「あたり!よくわかったね!」

「この世界はおまえの意識が反映されてるからな。」

「魔王クラムボンは、昔の日記にも書いてあるし!そうそう!お兄ちゃんが結婚しよ!言ったのも書いてあるし!持ってきてるから見る?」

「えっ、お前持ってきてるのか?」


 もしかしてさっき河原で取り出そうとしたのは日記か。


「うん…あ、そういえば、魔王が…この城のどこに行っても良いが、反対側の塔には上がるな、だって。」

「怪しいじゃないか。行くぞ!」


 反対側の塔も同じような作りだった。突き当り鍵のかかっていない小部屋があり、扉を開けると中央に置かれた台座にはプランターが一つ。

 真っ赤な実を一粒つけたミニトマトが植えてある。


「ミニトマト?お兄ちゃん、私食べられないよ?」


 ハルカは小さい時からミニトマトが苦手だ。だが、確か一度だけ克服しようと頑張ったことがあった。いま、目の前にあるようなプランターに植えて、一緒に水をやって…最後にはどうしたんだっけな。


「もしかして…あの夏の…」

「お兄ちゃん、なに?」


 ハルカのリュックから日記帳を取り出す。表紙に、「しょういち、なつやすみのえにっきちょう」と書かれている。


「ねぇねぇ、見つけた?けっこんしよ!のところ。」

「そんなもん探してねーよ。」


 途中の数ページに、まだ緑のミニトマトの絵が描いてある。観察日記もいっしょにつけていたようだ。が…その後、ミニトマトは、出てこない。


「わたし、覚えてるよー。ミニトマト、食べられらるようになるぞ!食べられない魔王やっつけるぞ、お兄ちゃん毎日励ましてくれて、でも、食べようと思った日に、台風きてプランターごと流されちゃったんだよね。」


 そうだったのか。確かに日記帳の終わりの方は、台風のことが書いてあった。


「だから、わたしはミニトマト食べられません。えっへん!でもかわいいから摘み取っちゃお。ぷちっ。」

「自慢すなっちゅーの!」

「そうだな!我も、このままで良いと思うぞ。あの夏、全ては水に流された。姫は永遠に助け出されることなく物語は幕を閉じたのだ。」

「魔王!生きていたのか!」

「閉じる方法知らねば我は滅びぬ!」


 俺の頭の中で何かの記憶が駆け抜けた。しかし、日記帳にないこの記憶は存在したのか、しなかったのか…。


「ハルカ!俺は、食べられない魔王クラムボンをやっつける!だからハルカも!」


 一瞬、視界の端っこで赤い実を手のひらに乗せるハルカを見て、俺は再び魔王に斬りかかる。


「きえろぉっっっ!」

「無駄ですよ!」


 斬りつけて真っ二つになった瞬間再生をはじめ、ぷかぷかと笑みを浮かべた魔王の顔が驚き、絶望に変わる。ハルカが、ミニトマトを口に入れ、そして噛み砕いて飲み込んだのだ。

 次の瞬間、地響きともに城が不気味な振動をはじめる。


「貴様!よくもぉぉぉ!!」

「城が崩れるぞっ!ハルカ!時間がない!窓だ!」


 ハルカの手を引き窓へ駆け寄る。眼下には水堀!俺はハルカの手を強く握ったまま、意を決して堀にダイブした!



 5月…


 俺たちは谷川の底を魚になって泳いでいた。


クラムボンはぷかぷか笑ったよ…

クラムボンは死んでしまったよ…


蟹の子供たちが、話をしている。視界が突然水の泡だらけになり、どうやら鳥が飛び込んで何かの魚を捕まえたようだった。



 12月…


 俺たちは、谷川の河原で火を囲んでいた。

「なあ、ハルカ、悪かったな。俺が、クラムボンを魔王だって教えたんだな。」

「お兄ちゃんは悪くないよ。あの夏だって、わたしがミニトマト克服できるように一生懸命だったもん、それに、わたしミニトマト食べられたし!ついさっきだけど。」

「ハルカ、もう一つ教えてくれ。日記には結婚してって言ったなんて書いてないし、そもそもミニトマトは台風で流されたんだから、魔王の話はしても俺は実際には戦ってないはずだ。あれは本当の出来事だったのか?」

「お兄ちゃん、そんなのどっちでもいいぐらいかっこいいヒーローもいるのよ。ね? あっ!やまなしが来たよ!」


 ハルカは、川岸にひっかかったやまなしをカニの近くに投げ入れた。やまなしは、どぶん、と一瞬沈み、浮きあがって良い香りを辺りに漂わせた。そろそろ蟹の父親が子供らに話をする頃だ。



END





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