ある夏の日
真夏の白昼夢
今日はいつもに増して暑い。
リビングでクーラーをつけていても廊下は地獄みたいに暑い。
だからトイレに行くだけで汗が吹き出てくる。
じっとりとした空気が余計に熱をはらむせいだ。
昼過ぎだから余計に、かもしれない。
アイスでも食べようと冷蔵庫をあさり、最後の1本にかじりつく。
口の中が冷えて少し頭がはっきりする。
アイスがなくなってしまったが、この暑い中外に出るのは嫌だから、夕方買いに行こうか。
アイスを半分くらい食べた時、ふと、床に目がいく。
冷たくて気持ちよさそう。
アイスで体の中は冷えたけど、肌はほてったまま。
そう、床に寝そべったら気持ちいいだろう。
食べきったアイスの棒を持ったままうつ伏せに寝そべる。
昨日掃除したから汚くはないと言い聞かせる。
特に右頬が冷たくて気持ちいい。
Tシャツもズボンも薄いけど、直接床に触れる手足と顔がよく冷える。
顔の左半分と背中側も同時に何とかならないのかと馬鹿なことを考える。
表面積を1番大きくするには、溶けて水みたいになるるのがいいのかしら。
いっそ溶けたいくらいだと思ったら、本当に体が溶けて液体になってしまった。
視界は地面にあお向けになっている時のそれ、いや、微妙に自由がきく。寝そべったまま首が動かせるくらい。
体全体が心地いい冷たさに触れている感覚。
動くことはできない。
フローリングに吸い込まれたりはしないみたい、ってそんなことはどうでも良くて。
現実を見つめられないのはアイスでは頭がさえきらなかったせいだと思いたい。
どうしよう。
一人暮らのくせに盆休みに帰省もせずに自宅でだらけていた今日。
誰かが来る予定はない。
恋人? HAHAHA
スマホは机の上で手が届かないが、届いても使えないだろう。
どうしたらいい。
元にもどりたいと念じる。戻らない。
手詰まりだ。
◇
ピー、と無機質な機械音。
絶望の音。8時間連続でついていた冷房が止まる音。
安いからって適当な買い物をしたことを今ほど後悔したことはない。
今リビングに充満する冷たい空気は、じきに外と同じ温度になる。
そのころには日も暮れているかもしれないがそもそも夜だって暑いのだ。
蒸発の危機。
しかしどうにもできない。
◇
リビングの時計を見ることは出来ないが体感2時間経った。
暑い。
いろいろ考えたが、どうしようもないという結論しかでない。
おまけに暑さで頭が働かなくなってきた。
もう、いいか。
床は相変わらず冷たいし、体はきもちいい。
なるようになれ。
このまま死んでも、人類できっと唯一の死に方だ。
それを慰めにしよう。
諦めた時は、寝るに限る。
人はこれをふて寝と呼ぶ。
体の力を抜いて、力んでいたことを知る。
筋肉も溶けているのでは、と少しおかしくて笑う。
ちゃぷ、と液体が揺れる。
目を閉じたらすぐに意識が落ちていく。
も う も ど れ な い
……し か た な い
◇
ベシャ、と右手に冷たい感触。
手に落ちてきたアイス。
溶けているのか手首をつたっていく。
それにしてもなぜ、床に寝そべって眠っているのか。
しかも食べかけのアイスを持ったまま。
溶けてしまったアイスはもう食べられないし、在庫ももうない。
買いに行くまでアイスはお預け。
なんだか酷く悲しい。
アイスのせいだけではない気がする。
うっかりすると涙が滲みそうなのをこらえて、こぼれたアイスを片付ける。
片付け終わって手を洗っていると、ピー、と冷房が鳴いた。
悲しさがどこかへ吹き飛ぶ。
何のアイスを買おうか、そればかりが頭を占めた。
夏はいつも溶けたいと思っています。
ざんねんながら、溶けたことはありません。