19話 防衛-3
日米開戦からほどなくしてドイツ軍も侵攻を再開した。これまでは度重なる突撃により損耗していたドイツ軍だったがどうやら回復したらしい。ドイツのノルウェー侵攻によりノルウェーは降伏寸前でもうじきフィンランドとも国境を接するようになるだろうがそちらも既に要塞を構築済みなので全くもって問題はなかった。まあ、流石にスウェーデン国境に要塞を構築するのには難があったのでそちらの方面は要塞なしで防衛するしかないが。
それでもドイツ軍にはそこまで戦線を伸ばす余裕は無いだろうからスウェーデンは史実とは違って中立の壁になるだろう。
そしてそろそろ見込みの出てきた反抗作戦の主力となるは、史実でもその圧倒的生産台数を誇った戦中屈指の名戦車でもあるT-34が主力を担う。あくまでも重戦車は歩兵の盾として機能するが、中戦車であるT-34はその快速を以てして重心突破を狙う。
ソ連の完全機械化師団だ。その名の通り、師団全ての部隊に至るまで戦車と装甲兵車が配備されている贅沢な師団だ。それを24個師団を用いて北部戦線を突破。続いて南部を対戦車砲を多数配備した特設師団で突破。最後に突出した中央部を大きく包囲する。
その作戦にはこちらにも包囲されるリスクがあるが速度で以てして完遂させる。また、ドイツ軍の名将であるハインツ・グデーリアン将軍やマンシュタイン将軍には簡単に感づかれるだろうが、ドイツ総統であるヒトラーは必ず死守命令を出すだろうからそちらは心配していない。もし将軍の独断で撤退させるにしても時間がそれなりにはあるだろうからその間に機甲師団の快速で包囲を完成させる。
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イギリス
「くそ、このままでは戦後の講話はソ連の独壇場になってしまうぞ!奴等はあのドイツ軍相手に善戦している!それに対して我々は本土に引きこもる有り様だ········最早アメリカの支援なしでは戦えんだろう。最近、いや、以前から国民も戦争に反対している。それもこれも日本だ!!日本さえ!日本さえインドを占領しなければ!!我が大英帝国は戦えた筈だ!!·······いや、既に手遅れだ。もしものことを今言っていても仕方がない。今は今出来ることを探さなければな。幸いにも未だ航空機の余剰は余りある。それを使ってどうにか······」
「チャーチル首相。熟考中失礼いたします。」
「誰だ?ああ、モントゴメリー将軍か。どうだね、戦況は?」
「はい。我々陸軍は現在アフリカ戦線では概ね優勢でイタリア植民地はもうすぐ占領が完了します。が、ドイツ軍の機甲師団が未だ片付きません。そちらの方は数を当てることで対処したいと思います。そして、ドイツとソ連ですが、ソ連が大きく優勢です。ソ連は防衛に徹しておりドイツ軍はその防衛線を突破できないでいます。そして近々ソ連軍は反抗作戦を行うようです。」
「ああ、ああ。良くわかった。君は引き続き作戦立案を頼む。」
「了解しました。」
そう言ってモントゴメリー将軍は退室した。
「ああ、本当に不味いぞ······ドイツ軍が劣勢とは言えまだまだその戦力は恐れるべきものだ。それに、ロンドンへの爆撃も問題だ。アメリカは武器は送ってきてくれているが兵力は送ってこない。いや、送ってこれないか······それもこれも日本のせいだ!!」
チャーチルはそう言ったが実際その通りだった。アメリカは日本軍のハワイ占領を受けてその兵力をどうしても西海岸に割かなければならなくなった。また、海軍も太平洋艦隊はほぼ壊滅状況にあり大西洋艦隊を回航させなければならなくなる程に追い詰められていた。
なので必然的に兵力をヨーロッパに避けなくなるのは自明の理である。自国よりも他国の防衛を優先する国はこの世には存在しないのだから。
しかしそれも焼け石に水であり西海岸に配備された兵力は僅かに10師団だった。何故そこまで少ないのかと言えばアメリカ軍自体人員不足に陥っていたのだ。国民が戦争に非協力的になっていたからだ。
国民はハワイ陥落と太平洋艦隊壊滅を受けて日本との講話を望んでいる。しかし政府は、いや、この際はルーズベルトは戦争を止めるわけにはいかなかった。ハルノートが公開された以上は日本への大義名分は既に無くなっていたが、そもそもルーズベルトは大の日本嫌いだった。しかも中国の市場進出を狙っているので日本はまさにアメリカにとっての目の上のたんこぶだったのだ。
しかし状況はご覧の通り、現状回復していない海軍では高い練度を誇る日本海軍から制海権を取ることは叶わなかった。
それもその筈。現時点での帝国海軍は世界最強の空母機動艦隊を有している。現在も新鋭艦である大鳳型装甲空母を2隻建造中だった。史実よりも開発と建造が早まったのだ。それは資源的な余裕があることが大きかった。また、世界で初めて航空母艦として設計された鳳翔は艦体の老朽化による旧式化という理由から練習艦となり今も多数のパイロットを育成している。しかも当時最強を誇る零戦も全ての空母に配備されているため帝国海軍の空母機動艦隊は名実ともに無敵艦隊だった。
他にも戦艦も負けじと戦果を挙げている。帝国海軍が世界に誇るビッグ7の長門も獅子奮迅の戦いを繰り広げており駆逐艦を中心に撃沈している。
その情報は秘匿しているが世界最大最強の戦艦大和は武蔵と共にアメリカ海軍を葬っていた。
一方のアメリカは現在も海軍を増産中であり、来年度には戦艦10隻、巡洋艦、駆逐艦を大量配備する予定だ。
それと諜報部から受けた大和と武蔵の存在の報告により空母よりも戦艦の建造が優先されていた。
ここには日本の思惑は無かったが運の良いことにアメリカはどんどんと大艦巨砲主義に傾いていた。
その点日本は戦艦と空母をバランス良く持っているため戦力的にも安定していた。
余り表に出てこない連邦海軍だがしっかりと活躍しておりドイツの貧弱な海軍を新造の空母2隻を擁する艦隊でバルト海にて奮闘している。現在の連邦海軍の主力艦は正規空母2隻と戦艦3隻、重巡洋艦5隻だった。後は補助艦艇に軽空母2隻がある。どれもこれも強化された造船技術と造船所によるものだ。連邦海軍の主な造船所はヨーロッパ側がレニングラードとセヴァストポリの二ヶ所でアジア側はウラジオストクだった。
因みに帝国海軍は横須賀、呉、長崎は勿論、更に函館、仙台、東京、大阪、神戸、台湾、釜山、大連にも大規模の造船所を追加していた。大規模と言うのは正規空母を造船できるレベルの造船所のことを言う。
勿論それらを全てフル稼働させる資源と工業力が必要だがそれも中国の工場建設ラッシュによって整いつつあった。そのため日本は今景気がとても良かった。
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ソビエト連邦 モスクワ クレムリン宮殿
「ふむ。では今月中には反抗作戦を開始できるのだな?」
「はい。正確には4月20日を予定しています。」
「よろしい。私もこの無駄な戦争に早く終止符を打ちたい。その為にはベルリン占領は必須だろう。しかし、攻勢に出れば必ず損害は増える。が、攻勢に出なければいつまでも戦争の主導権を握れない。分かるな?」
「はい。勿論です。それともう一つ。どうやら日本は完全にアメリカ太平洋艦隊を壊滅させたようです。」
「ああ、それなら私も聞いているよ。何せ世界が仰天したニュースだ。いくら練度がなってないアメリカ海軍とは言えその装備と量は一品級だ。しかし、侮ることなかれ日本軍だ。陸軍も海軍も凄まじい奮闘ぶりだ。あの練度はどこの国にも実現できまい。」
まあ、あそこまでの練度を作るのにもスパルタ教育が必要なのだろう。日本兵は世界でもトップクラスに勇敢な兵士だ。史実でもそれは証明されている。まあ、狂気じみたものでもあったが·······
今更ながら感慨深いというかなんというか·······元日本人としては日本が勝ってくれるのは有難い。史実のような悲劇も今のところは起きていない。とは言えアメリカもその国力は未だ無傷で存在する。
ま、今の私はソ連人だからソビエト連邦を第一優先とするのは当然だがな。




