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同志スターリンは美少女です!?  作者: 虎の狐
大戦
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16話 衝突-防衛





「遂に始まってしまった、か。」


エジョフが退室して私一人だけになった執務室で誰ともなくそう独り言をついつい漏らしてしまう。


そう。遂に始まったのだ。後世に歴史上最も規模が大きい地上戦として名を残す有名な戦争。それは第二次世界大戦という渦中に否応なく吸収され、戦争が一気に世界へと拡散した。史実では我が国の軍人だけで約1500万。民間人も含むと2000万以上にも上る。正に異常なほどに我が国も、ドイツも血を大地に流したとても残酷で悲惨で、醜い戦争だった。


私がスターリンに憑依した当初、独ソ戦という災いを回避しようとは思わなかった。·········いや、思えなかった。始まったのはこちらの意思ではない。ヒトラーの提唱する東方生存圏という訳の分からないトチ狂った思想のもと開戦されるべくして始まった戦争だった。つまり、この戦争を始めない為にはヒトラーとその内閣を構成する人員を暗殺しなければならなかったのだがそれは不可能に近かった。


ヒトラーという独裁者は暗殺を恐れて身の回りの警護が凄まじく固い。ご存知の通り1934年には長いナイフの夜というヒトラー率いるNSDAPにより突撃隊等が粛清されるという事件が起きた。それはそれは鮮やかな手口での粛清だったがこちらにとってはまざまざとナチ党の殲滅力を見せられた形となってしまい、いくら新編したNKVDとは言えども手出しが出来なくなってしまった。


その結果が独ソ戦の勃発。

史実よりも遅れたもののヒトラーはソ連侵攻を実行した。バルバロッサ作戦の名の元にドイツの膨大な戦力がこちらに降り向けられた。その総戦力は現在の我が国を僅かに上回る。戦時中ではない我が国は国家総動員を行うにも行えなかったので、開戦した今から膨大な人的資源を集めることとなる。つまり、動員の開始だ。


しかし、ドニエプル川で防衛する陸軍の総数は約300万に上る。その後方には大規模な飛行場がいくつも建造されていて爆撃機や対地攻撃機がいつでも発進出来るようになっている。いくらドイツの誇る戦車であろうと航空機からの爆撃には脆いものだ。それこそ、史実ドイツが開発、試作段階で終了した超重戦車である『マウス』の重厚な装甲でも爆撃には耐えられないだろう。


それとは別に史実ではドイツ海軍よりも悲惨なソ連海軍だったが、この世界のソビエト連邦はまだ2隻だけとは言え正規空母を有し、3隻の戦艦も現在建造中であり、補助艦もそれなりの数を揃えられている。少なくともドイツよりは随分とまともな海軍に復活していた。これも偏にアメリカや大日本帝国からの技術的支援の賜物だろう。また、国内の核の研究者を集めて『連邦核技術研究開発所』を設立して史実アメリカのマンハッタン計画に倣って現在絶賛研究中である。別に使うつもりは無いが所謂保険と言うものだ。もしもそれを使う場面があるのならばそれはアメリカと戦端を開いたということに他ならない。核技術には莫大な研究資金が必要になるのだが、それは国内の復興や資本主義経済の導入により予算と国庫は潤っていたので別段負担にはならなかった。勿論増税等はしていない。


私に出来ることはそのくらいだった。政治を行い、国を動かして、必要なところに金を動かす。他国と外交を行い国を富ませて、軍備も必要なだけを確保した。


それだけだ。私に直接祖国を守る力はない。それはジューコフ元帥やトゥハチェフスキー元帥、ヴァシレフスキー元帥らに任せ、我が人民達がその命を睹して我が国を、家族を、大切な人を守ろうとしてくれる。個々の力ではどうしようも出来なくても、同じ同志が集まり団結すればそれは大きな力となる。だから私は自分に出来ることを精一杯するだけだ。私は戦争の本当の怖さ等知らない。知るはずもない。元々は現代日本の一民間人でしかなかった私が。平和な日本に居た私が。しかし、戦争がどれだけ不毛なのかは知っている。それは後世の立場だから。

この当時の人達だって戦争の悲惨さと不毛さを知っている。過去に欧州大戦が起こり、世界に広まった。それにより大切な人を失う辛さと恐怖、虚しさを味合った。しかし、それでも悲劇は繰り返された。過去、幾度となく人間は戦争を積み重ね、文明を加速させた。高度な武器により死者は益々増え、終には自らの手で世界を滅ぼすことすら可能にする兵器をこの世に産み落としてしまった。

過ちを繰り返し、その度にそうならないよう法律や国家間の条約で縛り、規制した。


それでは根本的には何も解決しないと私は思った。どれだけ厳重に封印しようともいつかは放たれる時は来るだろう。一度作り上げたものをそのまま使わずに捨てる。核兵器に限りそれは出来ない。一度作ってしまった核兵器はそう簡単に破棄できるものではない。維持にも破棄にも膨大な費用が掛かる。或いはそれ以前に核保有国が生まれた時点でこのシナリオは決定事項だったのかもしれない。この非常に危ない、いつ破裂してもおかしくない情勢で平和が保たれている現代。


私はこの世界をそれには向かわせたくない。しっかりとこの時代にも核の危険性を説き、いずれ完成させるであろうアメリカにもその使用の危険性を教えて使わせないようにしなければならない。そして、核保有国が共同で他国の原爆及び水爆の開発の監視を行う。


それが私の思い描くこの世界の未来。まだ全ては決めていないけれど核の保有に関しては厳重な規制をかけることだけは決定している。列強各国は早かれ遅かれいつかは完成させるであろう。だからそうなる前に。まだ我が国とアメリカしか開発していない段階で規制してしまいたい。開発したものを白紙に戻すのは無理だ。ましてや莫大なエネルギーを生み出す原子力技術を白紙に戻すのは人類にとって大きな損失だ。確かに危険な面は多大にあるもののそれは人類の未来には必須の技術なのだ。いずれ、私はこの世を去る。それは全ての生物に等しく与えられた命。限りあるものだ。だから寿命の限りこの世界の未来の為に私は尽くす。未来を語るのは有益ではないのかもしれない。現実に、現在に目を向けた方が賢いのかもしれない。でも、それでも私は未来の為に。




■■■■




ドニエプル川防衛ライン



ソ連軍呼称の『南部戦線』はウクライナ地方での防衛ラインだ。


そこでは日夜突破を試みるドイツ軍を防ぎ跳ね返す為にソ連軍将兵が奮闘していた。



「くそっ······これで何回目だよ!!ドイツのやつらも諦めが悪いな!」


そう毒づくのは要塞の中より重機関銃を操作する兵士だった。


「ちっ、もう玉切れか······。」


そう言いながら兵士は近くの木箱に大量に詰められている弾薬ベルトを装填し再び突撃をしてくるドイツ兵士に照準を定めて放つ。


それをかれこれ三時間以上も繰り返していると呆れてくる。


「ホントに······何回も、無駄だし、不毛だ。敵なのに本当、哀れになってくるな。どうせ無能の上から指示されているんだろう。」


その兵士は何度も何度も突撃を繰り返して来ては機関銃や対戦車砲、要塞砲、迫撃砲になぎ倒されるドイツ兵士を見るたび呆れると共に憐憫の感情も沸き上がってきた。


敵であるドイツ軍も的確に段幕の薄い所に突撃をするが、それはどこも一時的な弾薬切れによるもので要塞内を走る電車が各所至るところに保管されている弾薬を運び迅速に補給されるため、実質どこも死角はなく結局殲滅されるのみだった。


しかし、要塞内に立て籠るソ連軍も流石に無傷とはいかず、ドイツの強力な戦車砲により頑丈なコンクリート壁が破壊され、その破片により負傷するもの、死亡するものが現れていた。それでもドイツ軍よりは遥かにマシな損害で、現状打つ手のないドイツは無謀にも突撃するしかなかったのだ。

それは南部に限ったことではない。中部でも、北部でも同様に突撃を繰り返していた。


しかし、要塞も度重なる突撃により所々崩壊し、その都度修理や補修を工兵が行っているものの間に合わない箇所が出て来はじめていた。


南部はその中でも酷く、ウクライナという土地そのものが広大な平野のためにどちらも損害が増えた。戦車が最も活躍できる草原だったためだ。




また弾薬を切らした機関銃の弾を近くの弾薬ベルトを装填する。それを何回も繰り返し機械のように機関銃を放つ。


「やっと終わったのかよ·······」


兵士がそう呟く頃には、突撃開始が朝だったのに既に日が傾き始めていた。


改めて要塞内を注視して見るとやはり所々欠けていたり、ヒビが入っていたり、場所によっては完全に崩壊していた。とは言えそれは地上部分だけであり地下には殆ど被害はなかった。その為要塞は正常に機能している。


その後、兵士は仲間と共に要塞内に設けられた食糧庫に大量に保存されているボルシチの缶詰めとドライフルーツを食べて、水をのみ腹を満たし喉の乾きを潤した。




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