15話 独ソ開戦
1941年8月10日。
この日、史実よりも一ヶ月以上も遅れてドイツがソ連国境を越境。侵攻を開始した。
ドイツの侵攻が一ヶ月以上も遅れた理由としてはスペイン内戦が長引いた事が主に挙げられるだろう。事実としてスペインで多数の人員と兵器を失っていた為にそれの補充に追われている節があった。
一方ソビエト連邦側はドイツが機甲師団を補充している間に着々と防衛準備を始め、ポーランド自治共和政府にもドイツとの開戦の恐れありと伝えてソビエト連邦本国への国民の避難を示唆した。それに対してポーランド自治共和政府はそれに賛成の意を表して全面的にそれを推し進めた。ポーランド国民は突然のソビエト連邦への避難に戸惑いが生じたがそれはドイツが東部ポーランドへ侵攻したことにより収束した。それに伴いポーランド人のソビエト連邦政府への信頼感は上昇した。
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クレムリン宮殿の執務室
「同志スターリン!!緊急です!!ドイツが、ドイツが!我が国へ侵攻を開始したとの報告がポーランド自治共和政府及び国境駐留軍よりありました!!尚、既にポーランドも駐留軍も避難しておりドイツの手から逃れております。続いて要塞線よりも西に住んでいる人民もその殆どがウラルの居留地へ避難を開始しておりドイツ軍の到達よりも遥かに速く避難が完了する見込みです。更にウクライナの地雷原でも十分にドイツの機甲師団へと損害を強いることができる見込みです。」
「そうか。同志エジョフ。同志にはこれからNKVDの長官を命じる。安心して良い、前長官の同志ヤゴーダには新しい役職を既に与えてそれで納得してもらっている。」
「わっ、私がですか!?」
「そうだ。同志ならば務まると私の判断でだ。」
「······分かりました。他でもない同志スターリンの頼みです。謹んでお引き受け致します。」
「そうか、それは良かったよ。それで、ドイツとの戦争だけどね、負傷者の手当ては絶対に優先させるように言ってね。後はドイツ軍捕虜も丁重に扱うように各軍司令官にも伝えておいてね。」
史実の両軍の捕虜の扱いは最悪だったからね。せめてドイツ軍の捕虜だけでも人道的に扱ってほしいものだ。そもそもハーグ陸戦条約があるのにも関わらず捕虜を用いた強制労働やそれでいて録な食事も与えられず病気や餓えで死んでいく悲惨なものだったからね。これで死者が減ると良いと思う私は傲慢なのか偽善者なのか·······
「分かりました。必ず伝えておきます。あと、軍の総司令部からの報告ではドイツの要塞線への到達予測は今年の10月に到達するとの見込みです。これには流石の速さとしか言い様が無いですね。」
「そうだな。あのヒトラーのことだ。どちらにしろ早期決戦でしか我が国を倒せないと分かっているからのこの速さだろう。しかし、そうはさせない。何のために時間と金と人員をかけて作り上げた要塞か。今この時こそその真価が発揮されるのだ。あのマジノ線にも優るとも劣らない強固な要塞がドニエプル川に沿ってあるのだからこれが抜かれればそれは我が国に戦力が失われた事を指す。ドイツも我が国も、国力の全てを賭けてこの戦争に挑んでいるのだ。だからと言って我々が負ける道理は無いがな。それに、アメリカからの支援がある。ファシストと共産主義にアレルギーを持つ彼等のことだ。どうせ後で多額の金を払わさせる腹積もりだろうがそうはいかん。その武器はそっくりそのまま送り返してやったからな。武器を送りつけて来るのならば戦費を負担してもらいたい所だ。全く。アメリカは他国同士の戦争に茶々を入れることしか知らないらしい。前回の大戦もそうだった。既に大勢が決した頃に参戦しては戦場を荒らし回ったやんちゃな子供だ。どうせ今回も何かといちゃもんをつけてこの戦争に介入するに決まっている。」
まあ、どうせ日本あたりに無理難題を押し付けて宣戦布告させるつもりだろう。
と、その言葉は心の内に留めた。
「はあ。それで、どうしますか?」
「どうするとも、我々はいつものように国を動かすだけさ。我々が軍事に手を出した所で出来ることは何もないのだから。それらは優秀な指揮官達に任せれば良いのだ。極東の諺で言えば適材適所と言うやつだ。我々は政治を、トゥハチェフスキー達は軍事をだ。そして我々は軍の要求を出来るだけ聞いてあげることが重要だ。実際に戦っているのは彼等なのだから彼等が必要と言ったものは必要なのだ。だから我々はそれに応えるために最大限円滑に事を進めなければならない。軍が上手く機能しなければ滅ぶのは国だけでなく国民もだ。ドイツと開戦したのも運命と言うやつだろう。もしも神が居るのならばこれはさしずめ試練と言った所だろう。共産主義の元では神は居ないとされたが、果たしてそれはどうだろうな?私は少なくとも居るとは思う。同志はどうだね?」
「私は、、居ると思いますよ。ええ、実は私、以前に不思議な体験をしておりまして。偶然の体験と言えばそうなのかもしれませんが。」
「ふ。そうか。不思議な体験か······そうだな。同志にもう一度不思議な体験をして貰う事にしよう。同志、これを飲みたまへ。」
私はそう言いながら例の不老薬をエジョフに渡した。
「同志これは?」
「飲んでみたら分かるものだ。」
「そうですか?それでは頂きますね。」
そう言い瓶の蓋を開けて中身を全て飲み干したエジョフ。その姿は茶髪を肩で切り揃えた美少女へとなった。
身長も少し縮んでいるようだ。
「これは!!?不思議な体験ですね!!?まさか私が女性の身体になってしまうとは!!同志スターリン。この薬は?」
「それはな、不老薬と言って連邦科学技術研究所で作られた薬なのだが何故か副作用が性転換と言うものでな、どうにも容姿端麗になるようだ。後は死ぬまでその姿だ。病気にもかからなくなる優れものだ。性転換と言う変な副作用が鳴ければな。だがまあ美少女になって良かったじゃないか、同志。」
「は、はぁ。まさか同志ヤゴーダと同志トゥハチェフスキーにもこれを?」
「やはり気付いたか。その通りあの二人にもこの薬を飲ませたのだ。そしたらあの姿だったから思わず笑ってしまったよ。同志のその姿は幾分普通で良かったよ。何せ同志ヤゴーダは銀髪赤目と現実味が無かったからね。」
「それで·······」
「さて、長話もここまでにして我々もそろそろ仕事に戻らなくてはな。ここで油を売っている訳にもいくまい。」
そして私は再び執務に戻り仕事を再開した。一方エジョフは美少女なったことが政府内に知れ渡りプロポーズされることが増えたとか。




