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運命の歯車はまわる

ヒーロー視点です。

今日もお互い約束した訳でもないのに、はじめてあった場所で彼女と2人、会話をする。

お互い、名前も身分も伏せたままで。

そうする事で、周りには明かさない事も話せるのではないかと彼女が言ったから。

なるほど、確かに私の身分を話してしまうと、大抵のものは皆恐縮してしまうし、彼女も気を使ってしまうだろう。

ひょっとしたら、こうして会えなくなってしまうかもしれない。

それは非常に困る。


会話と言っても、何故か最終的に私の悩みを彼女に聞いてもらってしまっている。

男としてとても情けないと毎回、城に帰るたびに反省はしてるし、今日こそは彼女の話を聞きたいと思っているのだけれど…。


ああ、今日もまた、聞き上手の彼女に促されて、私はいつのまにか悩みを相談してしまっている。



「大丈夫ですよ。きっと周りの方は皆、貴方様の頑張りは見てます。認めてます。少なくとも、私はこうして…。」


私の愚痴とも言える悩みを一通り聞いてくれた彼女は、全力で私を励まそうとしてくれたのか私の手を取り、ギュッと握ってくれたが、そのあと急に頬を赤く染め握られていた手をパッと離した。

離された手が少し寂しい。


「ごめんなさいっ、はしたないことをしました。」


彼女は両手を自分の頬に添え、ほぅっとひと息つき、一旦目を伏せてから、ゆっくりとまた私の目を見つめ、言葉を更に紡ぐ。

彼女の空色の瞳がとても美しく、思わず見入ってしまった。


「お互い、名も身分も知らず、こんな女が何を言っているんだと思われるかも知れませんが…それでも、知らないからこそ、わかることもあると思います。貴方様はこんなにも優しい。そして、優しいが故、色々悩んでしまっているのだと思うのです。大丈夫、自分を信じて、今までやってきた事を信じて。」


その言葉は私の心にゆっくりと染み込んできた。

そうか、私が今までしてきた事は無駄では無かったのか…。


「だから、ね。自分に自信を持ってください。貴方様はこんなにも素敵なのだから…。」


囁くように、彼女は私の耳元でそう囁いてくれた。

とても心地よい声で、言葉で。

ひとつひとつ、私の心はこうして彼女に救われている。


「…ありがとう。君のおかげで、君とこうして出会えたおかげで、私は心の重荷から解放された。」


─だから、これからもこうして会いたい。


お礼の言葉のあとに、そう続けた。


きっと彼女も私のことは憎からず思ってくれているはず。

そう思っての言葉だったけど。


だけど、その言葉を聞いた彼女の表情は、泣きそうなものだった。


「ごめんなさい。もう、会えないの。」


「…え?それは、どうして?私のことが嫌い?いつも情けないことばかり、言っていたから呆れた?」


それともやはり名前も身分も怪しい男と会うのが嫌になった?


それが理由なら今ここで、私の名前を伝えて、この国の第三王子だという事を打ち明けてもいい。


「いいえ、違うの。これ以上、貴方様と一緒にいたら、私はきっと、貴方様に恋をしてしまう。だから、そうなる前に。今なら、綺麗な思い出のまま、さよならが言えるから。」


彼女の口から紡がれた言葉は私の想像したものではなく。

私の心を踊らせるものだった。

彼女が、私に恋…。


今まで愛の囁きと言うものは嫌になるくらい、受けてきた。

私の身分に惹かれた女たちから。


だけど彼女は違う。

お互い名前も身分も明かしていない。

ただ1人の男として見た上での言葉なはず。

ああ、なんと素晴らしい事なのだろう。

身分も何も知らない上で、お互い惹かれ合うなんて。


「それなら、そんな事なら、心配しなくていい。実は、私も「ダメ、それ以上は言わないで。」…え?」


私も君のことを好きだと告白しようとしたら、彼女から悲痛な叫びが聞こえた。


「ダメです…。だって、私には婚約者がいます。きっと、貴方様にもいるでしょう?だから、ダメです。」


そう言葉を繋げていった彼女は今にも泣きそうな顔で微笑んだ。

彼女の言ったとおり、確かに私にも婚約者はいる。

だけど、それは名ばかりで、実際に私は会った事はないし、興味もなかった。

ただの政略結婚の相手だから。

そんなものは、解消して彼女を代わりに婚約者として指名してしまえばいい。

彼女の相手も私から彼女の家に解消するよう交渉しよう。

私の身分を明かした上でそう告げようとした。


だけど、その前に彼女は私の前から、逃げ出した。

あっという間に彼女の姿が見えなくなる。

私は彼女の名前をしらない。

彼女の服装や所作からきっと貴族の令嬢だとは思うが、家柄もわからないままだ。

それでも、きっと見つけてみせる。

そう決意して、今まで彼女がいた場所に視線を送った。

…そこには、彼女の物らしきハンカチが一枚落ちていた。

そっと拾い広げてみる。

隅の方に家紋らしき模様が刺繍されていた。


その紋章をみて私は驚愕する。

そしてたちまち喜びに満ち溢れた。


「ああ、やはり彼女は私の運命の人だったんだ!!」


なんという運命のいたずらか。

私の婚約者が彼女だったなんて!


今まで、顔も見なかったことを後悔した。

なぜ私は婚約者の彼女のことを避け続けていたのか。

当時の自分を罵倒したくなった。


一刻も早く城に帰り、父上に結婚式を早めてもらおう。

そして、彼女に会いに行こう。

きっと彼女も今の私と同様に驚くだろう。


早く会いたい。

そしてお互い今まで呼べなかった名前で呼びあいたい。


─待ってて、私の運命の人。











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