運命の人との出会い
ヒーロー視点です。
そう、あの日は、とても寒い日だった。
私を取り巻く何もかもが、全て嫌になり。
こっそりと、城を抜け出して。
1人で城下町まで、フラフラと出歩いた日。
何をするわけでも、何を見るわけでもなく。
ただ、ボンヤリと町行く人を眺めていただけだった。
誰も私の事なんて、気にしない。
誰も、私の事を見ない。
普段はそれが、とても気楽で。
心が落ち着く筈だったのに。
この日は、それがとても寂しく思えていた。
その時、声をかけてきたのが、彼女だった。
「あの、大丈夫ですか?」
いたわるような優しい柔らかい声と共に。
その声と同じくらい、柔らかで、あたたかなものが、私を包んだ。
「寒くないですか?」
私の首元には、彼女が先程まで使用していたであろう、ストールらしきものが、巻かれていた。
「よろしかったら、使ってくださいね。」
そう言い残して、彼女はそのまま私の目の前から姿を消した。
その彼女が残していった言葉を聞いてからあらためて自分の服装をみて思う。
なるほど、と。
その時の私の服装は、あまりにも薄着だった。
こんな寒い日にコートも着ず、軽装のまま城から抜け出してきていた。
「暖かいな…。」
体感だけでなく、なんだか心まで暖かくなったような気がして。
そのまま、ストールに顔を埋めた。
通りすがりの、名前も知らない私に。
優しさと温もりを与えたくれた、彼女。
これが、彼女とのはじめての出会いだった。
その日をきっかけに。
私が城を抜け出す回数が増えた。
建前は、彼女にストールを返すため。
本音は…ただ、もう一度、会いたかった。
果たして、その願いはすぐに叶った。
会えば会うほど。
彼女に惹かれていく。
そして確信する。
彼女こそ、私の運命なのだと。