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神官レット

 マリィナは、教会の前に立ちつくしていた。


 近くで見る教会は、恐ろしく大きいのに、柱の一本から壁面の隅々まで、どこもかしこもすさまじく精緻な装飾がほどこされた、マリィナの想像を超える建造物だった。


 植物や生き物、複雑な柄などが刻まれているのがわかる。

 空を振り仰げば、尖塔の先が、天を突くほど高いところにある。


 これだけのものを作るのに、いったいどれだけの時間がかかったんだろう。


 鐘楼を見上げたマリィナは、その場からしばらく動けなかった。


 はっと我に返ると、ディンたちが教会に入ってゆくところだった。

 慌ててマリィナもあとを追う。


 一歩、中に踏み込めば、そこは色ガラスを通して射し込む美しい光と静謐な空気に満ちていた。


 レットが先頭に立ち、ディン、リューと共に、女神フェルリネイアへ祈りを捧げる。


 フェルリネイアは、グラトリアス王国をはじめとするこの大陸全土で信仰されている女神で、マリィナの家にも小さな祭壇があった。


 教会を訪れたことはないけれど、祈り方は知っている。

 祈り終わると、ちょうど振り向いたレットと目が合った。


「レットさんは本当に神官さんなんですね」 


 普段、よろよろと旅をしている姿とは異なり、教会の中にいるレットからは頼りなさというものが感じられず、どころか、凛とした空気まで纏っているように見える。


「正確には元・神官というべきだけどね。以前は確かに教会でお勤めをさせていただいていたけれど、今はただの、自称・予言者のお守りだし」


「お守りとはなんだ。おまえにも有意義な経験をさせてやろうというおれの配慮に対する感謝が足りていないようだな」


「有意義な経験? いつ、どこでそんな経験ができるのやら。僕はそういうのはいいから、早く王都に帰りたいね」


「目的も達せず帰れるか!」

「目的、ねぇ……」


 レットが遠い目をする。


「体力作りも、有意義なことだと思いますよ。最初のころは少し歩いては倒れていたのに、今では多少、一度に歩ける距離が伸びたじゃないですか」


「ああ、なるほどね……」 


 リューの言葉に、レットはなにかを諦めたようにうなずいた。

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