レルドナ
マリィナたちは、峠をいくつか越え、山を下り、麓の街レルドナに到着した。
レルドナという街の名前はマリィナも知っていたけれど、訪れたことは一度もない。
実際に来てみて、マリィナは建物と人の多さに圧倒された。
道沿いにずらりと並ぶ石造りの家々は頑丈そうで高さがある。
建造物の少ないところで過ごしてきたマリィナは、感動するのと同時に圧迫感に襲われる。
けれど通りを行き交う人々はみな活気があって、マリィナの気持ちもわくわくと弾む。
空の開けた広場に出た時、家々の屋根の向こうに、一際高いとんがった塔が見えた。
あれはなんだろう?
「教会だ」
まるでマリィナの思考を読んだように、ディンが言った。
「ああ、あれが! 教会って、みんながお祈りするところですよね?」
そのくらいは、マリィナだって知っている。
ただ、行ったことがないだけだ。
高原には教会がない。
教会に限らず、ところどころに点在する山小屋を除けば、マリィナとフィールたちの家以外の建物を高原では見たことがなかった。
「これから行ってみるか?」
ディンが青紫の瞳でマリィナの顔を覗き込む。
「いいんですか?」
「もともと滞在中に行くつもりだったんだ。立ち寄るべきだとおれの中のなにかが言っている」
自信満々の体で、ディンが胸を張る。
「わあ。さすが予言者ですね。すごいです! これなら世界を救える日は近いですね!」
リューはディンの妄想だと言っていたけれど、もしかしたらディンは本当に予言者なのかもしれない。
その可能性も、きっと全くないわけじゃないはずだ。きっと。
「まあな。これで世界が救えるといいんだけどな」
そう言って視線を彷徨わせるディンの顔には、さっきとは打って変わって、憂いの色が浮かんでいて、わたしは少し心配になる。
「……救うんですよね?」
首を傾げて問いかけると、ディンがはっとしたようにマリィナを見た。
「もちろんだ。その為の旅だからな!」
「わたしも協力しますよ! 無事、旅が終わったら、みんな平和に暮らせますよね」
わたしは再就職先を斡旋してもらって、体力のなさそうなレルトは旅から解放されてほっとするに違いない。
リューは、その後もディンの傍に仕えるのかもしれないけど。
「ああ、みんな平和に暮らせるさ」
ディンは、自分に言い聞かせるように告げた。




