腕前の程は
「そっ、それじゃあ、ディン。一曲、弾きましょうか?」
がさごそと、リアラをしまっている袋の口を開けながら訊く。
「そうだな。それじゃあ、一曲頼もう。その後、出発する」
「はいっ!」
「了解です」
マリィナとリューが短く応え、レットは深い深い息を吐いた。
リューは近くに倒れている木の幹の様子を調べてから、ディンをそちらへ誘導する。
マリィナはその正面にある小岩に腰を下ろした。
リューはディンの斜め後ろに背筋を伸ばして立ち、レルトはどさりと無造作に地面に座り込んだ。
ぽろんと弦の調整をしながら、なにを弾こうかなと考える。
ディンはどんな曲が好きなんだろう。
冒険譚に感化されるくらいだから、そういう、どきどきわくわくする感じの曲がいいのかな。
ちらりとディンの様子を窺うと、その視線はマリィナの手元へと注がれていた。
「なんだ?」
「あの、どんな曲がお好きかなって思って」
「おまえの好きな曲で構わない」
自分の好きな曲。
それなら――。
大きくひとつ、深呼吸をする。
これまでに、たぶん一番多く弾いた曲。
はじめに音の少ない状態で覚えて、そこからだんだん音を増やしていった。
目を閉じる。
最初の一音。指先で弦を弾く。
その先は、考えなくても自然と指が動く。
この曲は体がすっかり覚えている。間違えるほうが難しいくらいだ。
瞼の裏に浮かぶのは、幼いころの記憶。
お母さんの顔は覚えていないけれど、弦を弾く指先と、そこから紡がれる音は覚えている。
そして歌。
お母さんは弾きながらいつも楽しそうに歌っていた。
わたしは歌うのが苦手だから弾くだけだけど。
これは、身近な自然の美しさに気づかせてくれる曲。
次々と展開される旋律は空の青さを、水の冷たさを、新緑の美しさを、鳥たちの鳴き声を、鮮やかに甦らせる。
そしてたどり着いた最後の一音。
涼やかに響いたその音が、風に運ばれて消えてゆく――。
弾き終えたマリィナは、ふぅ、とひとつ息を吐き出した。
大きな失敗はしなかったけれど、間違わなければいいってものじゃない。
リューは大丈夫と言っていたけれど、ディンに気に入ってもらえなければ、楽師の職を解かれてしまうかもしれないのだ。
マリィナは、演奏中に閉じていた瞼をそっと開け、ディンの様子を窺う。
曲を聴き終えたディンは、マリィナの望むような表情をしてはいなかった。
そこにあるのは、僅かに目を瞠ったディンの顔。
「えっ……と……」
なんと言えばいいものかわからず、マリィナの目が空を泳ぐ。
そんなに驚くほど、下手だっただろうか。
もしかして、もう解雇?
マリィナの中に、むくむくと不安が湧き上がってきた。




