出立、そして……
「おふたりとも、お気をつけて」
王宮から高原へと帰る日、ディンとリューが門まで見送りにきてくれた。
「リューさん、ありがとうございます」
「また会える日を楽しみにしているからな」
ディンが、名残惜しそうに、でもそんな思いを振り切るように言った。
「わたしもです! それまでに、リアラの腕、磨いておきますからね!」
リアラの入った袋を抱える手にぎゅっと力をこめる。
空は晴天。
穏やかな日差しが心地いい。
「ディン様、大事なことをお忘れではありませんか?」
「ん?」
首をかしげるディンに向けて、リューが手に持っていた袋を差し出す。
「お、おお! もちろん忘れてなどいない。マリィナ、フィール、今回の旅の給金だ。受け取ってくれ」
そういえば、まだ受け取っていなかった。
すっかり忘れていた。
「あ、ありがとうございます!」
「勝手について行っただけなのに、悪いな」
「なに、フィールには随分と救われた。感謝している」
めずらしく素直に感謝を口にされて、フィールは少しむずがゆそうにしている。
「まあな。また、何かあったら助けてやってもいいぜ」
「それはこちらの台詞だ。おれの助けが必要な時には、連絡をしてくれ」
「頭の片隅くらいに記憶しとくことにするかな」
フィールの言葉に、ディンが苦笑する。
「まあ、その程度でも許してやるか。忘れられさえしなければな」
「記憶力は、悪くないんだ」
むしろ、フィールの記憶力はとてもいい。
マリィナが覚えていないことでも、よく覚えている。
「いつまでもこうしていたいのですが、そろそろ出発しなければ、日暮れまでに泊まる予定の街に着けなくなります」
言葉は淡々としているけれど、切り出したリューの声から名残惜しさが伝わってくる。
「そうですね、そろそろ行かないと」
「だな」
「最後にひとつだけ。予言者ディン、新たな予言はありますか?」
旅の仲間であり予言者に、訊いてみる。
ディンは少し目を丸くしてから、一拍おいて、ふふっと不敵な笑みを浮かべた。
「これからもおれは世界を救うだろう」
ぱちぱちぱち、とリューが拍手をする。
フィールは無言のまま、片方の口の端をわずかに上げた。
「期待してます」
マリィナが全力で伝える。
満足そうな笑みを浮かべるディンと、その傍らに佇むリューに見送られ、マリィナとフィールは王宮をあとにするのだった。
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ふたりを見送ったディンが自室に戻りしばらくが経った頃、窓の外から雨音が聞こえ始めた。
「……雨か。マリィナとフィールは無事だろうか」
「濡れていなければいいのですが」
ディンとリューは、ふたりそろって窓の外へと目を向ける。
いつの間にか、空には暗雲が広がっていた。
敷地内に植えられている木々が大きく揺れており、風が強まっていることがわかる。
静まり返った部屋の中で、窓に当たる雨の音がいやに大きく聞こえた。
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やがて、ディンたちは知ることになる。
――マリィナとフィールがその消息を絶ったことを。




