罪と償い
ディンと話した後、マリィナは部屋に下がることにした。
演奏は楽しかったけれど、緊張のための疲れもあった。
「不意打ちの様になってしまってすまなかったな。今夜はゆっくり休んでくれ」
「いえ、とんでもない! 嬉しかったです」
「部屋まで送りましょうか?」
テラスから戻ってきたマリィナたちに気づいたリューが聞いてくれる。
けれど、まだまだ晩餐会は続いていて、この場にディンがいる以上、リューも仕事があるってことだろう。
「ありがとうございます、リューさん。でも、大丈夫です。部屋の場所は覚えてるので」
「そうですか。それでは、ここで。ゆっくりお休みください」
ディンと、その傍らに控えるリューに笑顔で「おやすみなさい」と挨拶をして、マリィナは大広間をあとにした。
歩いていると、まだ夢の中にいるように、足元が少しふわふわしている気がする。
記憶をたよりに城内の廊下を歩いていると、
「マリィナ!」
と自分を呼ぶ声が聞こえた。
聞き覚えのある、女性の声。
きょろきょろ見回していると、再び声が聞こえる。
二階の廊下を歩いている自分より、下の方から。
吹き抜け側の手すりから下を見ると、一階にルテアとレットの姿があった。
「そこで待っとって~」
ルテアがそう言いながら、階段を駆け上がってくる。
そのあとを、レットが少し遅れてついてくる。
「ルテア、弟さんは、大丈夫でしたか?」
ルテアは、病気だという弟さんが心配で、会いに行っていたはずだ。
「ありがとう。大丈夫、薬もちゃんと飲ませてもらっとって、病状も落ち着いとったけん」
「当たり前だろ。そのあたりはしっかりと指示を出してあるし、念を押してある」
レットがきっぱりと言い切る。
「レットがっていうよりは、ディンが指示してくれたんだろうけど」
「それは……最終的にはそうだけど」
それでも、弟さんの状態が安定していると知って、マリィナはほっとした。
その時になって、ふたりが旅装に身を包んでいることに気づく。
「弟さんのこと、よかったですね。ところで、あの……おふたりはこれからどこかへ行かれるんですか?」
マリィナの問いに、ああ、とレットが頷く。
「うちがしとったことは償わんといけんけん……」
「国営の、薬の研究所がある。ルテアには、そこでの労働を命じる判決が下った。この国の為に働いて償えってことだ。逃げ出さないように、見張りも付く。……まあ、その見張り役が僕なわけなんだけどね」
ルテアを攫い、恐喝し、利用していた組織は、宿で捕獲された連中から大元までたどられ、壊滅したと聞いた。
罪は償わなければならない。
ルテアが研究所に送られるのは、適材適所ということかもしれない。
「そうなんですね。おふたりなら、きっと今よりもっと多くの人を助けられる、そんなお薬をきっと作れると思います」
治療薬のおかげで疫病がおさまったのは、間違いのないことだから。
「研究所勤めをしたいと思ってたところだったから、まあ悪くない配置だよね」
「ありがとう、マリィナ。そんな薬を、きっとたくさん作るけんね」
「はい! がんばってください」
マリィナの言葉に、ルテアはしっかりと頷いた。
それじゃあ、とふたりが踵を返す。
晩餐会の賑わいがかすかに聞こえてくる中、マリィナはふたりが階段を下り、その先の壁の陰へと消えるまで見送った。




