夢のようなひととき
演奏が終わっても、しばらくマリィナは動けずにいた。
吟遊詩人の演奏はさすがで、ついてゆくので必死だった。
でも、それ以上に懐かしくて楽しかった。
演奏が終わるなり、指が震えだすくらいに。
拍手を浴びながら思わず放心していたマリィナは、はっと我に帰る。
先程まで吟遊詩人のいた場所へ目をやるけれど、そこにはもう誰もいない。
お母さん⁉︎
焦って周囲を見渡す。
いない。
このまま、こうしてここに立っていても、邪魔になるだけだ。
マリィナは慌てて一礼すると、そのまま観衆の中へと逃げ戻った。
ドレスの裾が長くて、動きにくい。
どこに行ったんだろう。
リアラをぎゅっと抱えて、きょろきょろとお母さんを探していると、どん、と人にぶつかってしまった。
「大丈夫か?」
「ディン!」
ぶつかったんじゃなくて、うろうろしているマリィナを引き止めようとしてくれたらしい。
「お母さんが!」
「ああ。終わったら、別室で待っているように伝えてあったんだけどな……」
ディンが言葉尻を濁す。
「知ってたの? ねぇ、それどこの部屋?」
「それが、立ち寄らず、そのままいなくなってしまったようです。いつも、神出鬼没な人ではありますが」
マリィナの問いに応えてくれたのはリューだった。
「そんな……」
会うのは、とんでもなく久しぶりだったのに。
お母さんにとって、マリィナのことなんて些細なことなのかもしれない。
と、少し寂しくなる。
でも、よく考えてみれば、一緒に演奏できただけでも、すごいことだ。
もともと、会えるなんて少しも思ってなかったんだし。
この場を設けてくれたのは、ディンに違いない。
どれだけ感謝してもし足りないくらいだ。
「ありがとう、ディン」
その思いを伝えると、ディンは少し照れたように頬を掻いた。




