王都ネールディア
ガイヌから船に乗り、陸路は馬を使い、マリィナたちはあっという間にネールディア王都へ着いた。
ただしフィールだけは、祖父のことが心配でもあるし、一度高原に戻り、ウィネヴィーをネールディアへ送る手配をしてからネールディアへ向かう手筈になっている。
王都へ着いたところで、ルテアは弟がかくまわれている屋敷へ向かった。
弟の顔を見ないと安心できないから、と言っていた。
ひとりっ子のマリィナは、兄弟っていいなぁ、と羨ましく思う。
ディンとシェリを見ている時も同じように感じた。
だからそれをディンに伝えたら、兄弟が多すぎるのは面倒なだけだ、なんて言葉が返ってきたんけど。
結局、王宮へはディンとリュー、レットとマリィナの4人で向かった。
ネールディアの王宮は、ガイヌの巨大な宮殿よりも更に大きかった。
もう、マリィナの中ではあまりにも大きすぎて、なんと言えばいいのかわからないくらいだ。
たぶん、王宮内を踏破しようと思ったら何日もかかってしまうだろうことは間違いない。
王都は、街の規模も人の数も、マリィナが知っているどことも比べられないくらい桁違いだった。あのガイヌと比べても、だ。
ディンはそんな王国の王子様なんだ――。
一緒に旅をしている時はほとんど意識しなかったその事実が、マリィナの中でぐんと現実味を帯びる。
「どうした?」
高原で住んでいた家が丸々入ってしまうくらい広くて天井の高い部屋でぼうっとしてしまっていたマリィナは、声をかけられてはっと顔を上げた。
「レットさん……。な、なんでもないです。王宮って外から見てもすごいけど、ひとつひとつのお部屋もすごいんですね! 見たことのないものがいっぱいです!」
ディンとリューは王宮に着くなり慌ただしくどこかへ行ってしまった。
疫病の治療薬のことで、大忙しなんだろう。
だから、この部屋にはマリィナとレットのふたりだけだ。
「見たことのないものをたくさん見るのは、いい経験になる。この旅も、きっとマリィナの音楽にたくさんの影響を与えたんじゃないか?」
「はい。そう思います」
マリィナはぎゅっとリアラを抱えて頷いた。
「さて、僕はこれからどうしようかな。神官に戻る気はないし、かといって肉体労働は苦手だし。これは、ディンに頼んで、王立学校に適当な研究室を作らせるしかないな。神学校で薬草なんかの勉強もするんだけど、実は神学よりもそっちのほうに興味があったんだ。まったり薬草の研究でもしながら余生を過ごせれば最高だけどな」
「余生って、レットさんまだまだ若いじゃないですか」
二十一歳でもう余生だなんてもったいない。
「マリィナは就職先、どうするか決めたのか?」
「まだ、考え中です。最初はお給金がもらえるならなんでもしようと思ってたんですけど、リアラを弾いてるうちに、もっともっと上手くなりたいって思うようになってきちゃって」
「いいことじゃないか。マリィナにはきっと才能がある。きちんと勉強すれば、王立楽団にだって入れるかもしれない」
「そ、そんな! 王立楽団の人たちに失礼ですよ、そんなこと言ったら! それにわたしは……」
マリィナは、もっともっと上手くなって、ディンに笑ってもらいたいだけなのだ。
もちろん、生きていくためのお金を稼いだ上で、だけれど。
ディンは今なにをしてるのかな。
マリィナは窓の外の大空を見上げて、ため息をついた。




