領主の妻
「快復した!?」
「はい。発疹もきれいに消え、熱も下がり、食欲もお戻りになりました」
すっかり顔なじみになった侍女から嬉しい報告を受けたのは、シェリに薬を飲ませてから五日後のことだった。
経過を見守るため、マリィナたちは離宮に留まっていたのだ。
その間、マリィナはシェリの容体の安定している時を見計らって、シェリの望む曲を奏でた。
シェリは「なんだか懐かしい感じがして、安心するわ」と喜んでくれた。
シェリの笑顔は、ディンの笑った顔によく似ていて、ああ兄妹なんだなぁ、とマリィナは思うのだった。
毎日シェリのところには顔を出していたから、日を重ねるにつれ、徐々にシェリの顔色がよくなっていることには気づいていた。
このまま快復してくれればいいと願っていた。
とはいえその薬は決して治療薬にはなり得ないとレットたちから聞いていたので、マリィナには奇跡祈ることしかできなかった。
けれど――。
本当に奇跡が起きたの!?
「間違いないのか」
「はい。どうぞお会いになってください」
「そうしよう」
自分たちに宛がわれた部屋の一室に集まっていたマリィナたちは、足早に部屋を出てゆくディンのあとに続いた。
シェリは、寝台に体を起こし、ふわりとした笑みを浮かべてマリィナたちを迎えた。
「発疹が全部消えたのか?」
「はい、ディンお兄様。お兄様とお仲間の方々のおかげです。お礼を言わせてください。どうもありがとうございます」
このようなところからで申し訳ないのですけれど、念のためもうしばらくは寝台から出るなと言われているのです、とシェリがはにかみながら言う。
万が一にも再発するようなことがあってはいけないと、周囲の者たちが気を配っているのだろう。
「よかった……。よくがんばったな、シェリ」
「ありがとうございます。実は、お伝えしたいことがあるのです。先日いただいたお薬なのですが、余ったものを救護院にも渡したのです。あそこには疫病に感染した者が多くおりますから。そうしましたら、わたくしとほぼ時を同じくして、快復したという報せが」
「おまえだけでなく、他にも薬によって病が治った者がいるということか」
「はい。お兄様、あの薬は病の進行を抑えるものではありません。あれこそ、疫病の治療薬ですわ」
力強い口調でシュリが言い切った。
「治療薬。あれが、か……」
「そこで……なんですけれど、ひとつ、お願いがあるのです」
「薬の量産か」
「はい。調合の割合や適正な時間など、細かいことがわたくしたちにはわかりません。枯れウィネヴィーが必要ということでしたら、用意をすることは可能です。ですから、ご協力を仰ぎたいのです」
「そのことだが、少しいいか?」
「なんでしょうか」
「もしあの薬が治療薬なのだとしたら、おそらく普通のウィネヴィーでは、回復は期待できない。あの調合では、疫病を完治させることができなかったんだ。これは過去に臨床済みだ」
「では、普通ではないウィネヴィーというのは、どこに?」
「ララシア山脈の高原だ」
「早速、採取に向かわせます」
シェリが侍女に対してひとつ頷いてみせると、侍女は速やかに部屋を出て行った。
「すっかり、貫録がついたな、シェリ」
ディンが嬉しそうに言うと、シェリが胸を張った。
「これでも、領主の妻ですから」
「……そうだな。立派なもんだ」
「お兄様は、もう、ここを発たれるのですか?」
「どうしてそう思う?」
「そういう顔をしておられます。もともとこの疫病はネールディアで広まっていたもの。一刻も早くネールディアでも治療薬を各地にいきわたらせてください」
「ああ。わかった。ネールディアが落ち着いたら、また会いに来てもいいか?」
「もちろんですわ、お兄様。その時には、お仲間のみなさまもぜひご一緒にいらしてくださいね」
「そうしよう」
兄妹は短い別れの挨拶を交わし、マリィナたちは急ぎネールディア王都へ向かうことになった。




