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領主と予言者

「それで、ネールディア王国第八王子ディン・フェン・ツァ・ネールディア殿下の親衛隊隊長リュー・ファイリム殿が、私のような者にどのようなご用件でしょうか?」

 

 領主のデルクが、疲労の滲む顔で言った。


「まずはこうして面会に応じで下さったことに感謝の意を表したいところですが……」


 リューの言葉を、デルクが遮るように口を開く。


「礼など不要。手短にお願いしたい。確かに我が国と貴国とは同盟を結んでおり、また国民の国境の行き来を制限してはおりませんが、かといってこのような地方都市に親衛隊長殿がいらっしゃる理由を、わたしは計りかねておりましてね。申し訳ないのですが、こちらも時間を余らせているわけではいないのです」


 デルクが険しい表情で告げる。

 年のころは三十をいくらか過ぎた程度。鍛えられた体は鍛錬を積んできた者のそれで、その相貌は精悍さをたたえている。


 悪い人には見えないことに、マリィナはほっとする。

 言葉のそっけなさは、今、領主が置かれている状況を鑑みれば仕方のないことだろう。


「では手短に。支給、エフィネ教会に人をやってほしい。詳しい話は教会長から聞くといい」


 ディンは本当に短く、それだけを告げると席を立った。

 

「エフィネ教会! どうして貴方がたが、そのような……」


 デルクが訝る視線をマリィナたちへと向ける。


「我々はエフィネ教会から参りました。教会に、疫病の感染予防を期待できる薬があります。また、教会長には現状で把握できている疫病に関する情報を教えてあります。被害を最小限に抑えるためにも、予防薬を広めることが急務かと」


 リューがディンのあとを引き継ぐように、説明する。


「予防薬!? そんなものがあるのなら――」


「予防薬は試行錯誤の末に生み出されたものです。ただ、あくまでも予防であって治療ではありません。そこはご承知おきいただきたい。それと、我々はこの予防薬について広めるため、先を急いでいるのです。できれば馬をお借りしたいのですが」


「それはもちろん構いませんが――。しかし、ネールディアの方が何故、このようなところに? それに、ご一緒されているこちらの方々は――」


「ディン殿下は、自国のみならず、世界の平和を願っておいでです。その為なら惜しみなく行動される。わたしは殿下の意を受けて動いているだけなのです。こちらの面々は、協力してくれている者たちです」


 リューが流れるように説明する。

 まるで、ディンがすごく立派な王子のように聞こえる。


「そうでしたか。立場上、疑うことも仕事でしてね。いや、無礼をいたしました。馬はすぐに用意させましょう。少し休んでいってくださいと言いたいところですが……」

「それ以上のお気遣いは無用です。先を急ぎますので」


「相分かりました。それでは、支度が整うまでのあいだだけでも。なにか用意させますので、少しばかりお待ちいただきたい」


 デルクはそう言うと立ち上がり、それでは失礼いたします、と部屋を出てゆこうとする。


「ご厚意、痛み入る」


 そんなデルクに、ディンが礼を述べた。


「こちらこそ、領主としてお礼申し上げる。では」


 短い挨拶。

 けれど一刻も早く疫病対策をなんとかしなければ、というデルクの強い気持ちが伝わってきて、悪い感じはしなかった。


 馬が借りられる。

 これで、時間が随分と短縮できる。

 

 デルクを見送り、ふぅ、とリューが息を吐いた。


「リュー、よくやった」


 ディンがリューを労うと、リューは疲れた顔をディンへ向けた。


「ディン様、ただの予言者だというのなら、もう少し言葉遣いにお気を付け下さい。一介の予言者が領主様より偉そうなのはいただけません」

「確かに、偉そうだったね」


 くくっ、とレットが愉快そうに笑う。

 ふたりに言われて、ディンがそうだったか? と首を捻る。

 どうやら、気づいていなかったらしい。


「でもほら、デルクさん、特に気にしてなさそうだったし、きっと大丈夫だよね」


 マリィナが助け舟を出すと、ディンがだよな、とうなずいている。

 そんなディンの様子を見て、リューはやれやれと肩をすくめるのだった。

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