身分の証
領主の館は、離れた場所からでも人の出入りが多いのがわかった。
徒歩のマリィナたちを馬が追い越してゆく。手綱を握る男は、緊迫した面持ちをしていた。
また、館から慌しく飛び出してゆく馬の姿も見える。
「どうやら、疫病に関する情報は届いているようだな」
「予防薬についての情報も、きちんと伝わっていればよいのですが」
「ああ」
自然と、六人の足が早まる。
が、六人は門で足止めをくうことになった。
領主は忙しくて、時間が取れないというのだ。
ディンが、予言者だと名乗ったことも、面会をはねのけられた理由のひとつかもしれないけれど。
「名乗らんの?」
「さっき名乗っただろう。予言者だと」
ルテアに問われて、ディンが肩をすくめながら答える。
「そっちじゃなくて、王子だってことのほうだって、わかってるんだろうに」
レットが呆れたように息を吐く。
「ふざけている場合でもないしな」
「ふざけてなんかいないだろう! 別に王子だと名乗ってもいいが、それを証明できるものを持ち合わせていない。まず、信用してもらえないだろう」
ディンがフィールに事情を明かした。
「なにかないのか?」
「なにもない。下手にそんなものを持ち歩いて、もし厄介ごとにでも巻き込まれようものなら外交問題に発展する。そうだろ? リュー」
「そうですね。ですがわたしの身分なら証明できます」
リューが言いながら、外套の下から、金属でできたなにかを取り出した。
中央に羽を広げた鳥、それを囲むように蔓があしらわれ、いくつかの花が刻まれたそれは――。
「親衛隊徽章!?」
ディンが大きな声を上げる。
「はい」
「なんで置いて来なかったんだ」
「一応、大事なものなので」
「一応……?」
その言葉に引っ掛かりを覚えたのか、ディンの眉間にしわが寄る。
「でも、それがあれば、領主さまにお会いできるんですね!」
正直、親衛隊徽章にどれほどの権威があるものなのかマリィナにはよくわからなかったけれど、とりあえずすごいものだというのは間違いなさそうだ。
「どうだか。外国の王子の親衛隊徽章を、領主が正しく認識できるかどうか怪しいもんだけどな」
「まあ、知らなくても、無下に扱うことはできなくなるよね、一応は」
「ええ、一応は」
フィールの言葉にレットとリューが応じ、それを聞いたディンの眉間のしわは更に深くなるのだった。




