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時間との闘い

「教会長、この街のこと、あとは任せてもいいな?」

「もちろんです。めぐりあわせに感謝いたします」


 ゲイルがディンに対して礼をとる。


「またそのうち絶対に会いに来るから、上手い酒を用意しとくの、忘れるなよ」

「聖職者ですから、ほどほどに」 


 レットの言葉に、ゲイルが苦笑を浮かべた。


「今の僕は微妙な立場だし、言い訳くらいいくらでも用意できるさ。なんなら、おまえの前で僕だけ呑んでもいいしね」


 ちっとも悪びれないレットを見て、ゲイルが目を細める。


「随分とたくましくなったようで、なによりです。わたしがネールディアの教会に派遣されると知った時には、あんなにも泣いてくれたレットがねぇ」

「ちょ、おい! いらないこと言うなよ!」


 レットの焦る様子を見て、ディンたちの顔に笑みが戻る。マリィナも、思わず笑みをこぼしてしまった。


「道中、お気をつけて」


 教会の前に立つゲイルに見送られて、マリィナたちは慌ただしく出発することになった。

 襟巻きで鼻まで隠し、足早に大通りを抜ける。

 街の活気はさっきまでと変わらない。


 すぐそこまで忍び寄っている死神の存在には、まだ誰も気づいていないようだった。

 よそ見をしていたせいで、マリィナは石畳のはがれた箇所につまづいてしまった。


「あっ!」


 こける、と思ったところを、すぐ隣を歩いていたディンが素早く手をつかんで支えた。

 気がつけば、ディンはいつもマリィナのそばにいてくれる。


「急がせてすまないな」

「いえ。大変なときだって、わかってますから!」

「助かる」


 ディンがマリィナの手を握ったまま、先ほどまでより少し速度を落として走り出す。


 これから領主の館に向かい、この街が今置かれている状況と対応策とを説明し、すぐにガイヌへ向かうことになっている。   


 領主のところで馬を借りることができれば、一週間もあればガイヌに着けるらしい。

 けれど、ただ先を急ぐだけではなく、立ち寄る場所で疫病の対処法や予防薬についても教えなければならない。


 強行突破になる、とディンは言っていた。

 時間との戦いだ、とも。


「ディン。疫病の発生は、予見していたことですか?」


「……既にグラトリアス国内でその流行は確認されていた。国交のあるネールディアにも、或いは、という懸念はあった。ネールディア国王には、既にその可能性について伝えてあると聞いている。国内で感染者が出たことを知れば、すぐになんらかの手を打つだろう」


 ディンはただ真っ直ぐ、睨みつけるように前を見据えいた。 

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