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予防薬

 エフィネ教会は、マリィナが思っていたよりも小さな教会だった。


 レルドナで大きな教会を見てきたから、というのもあるだろうけれど、それを差し引いても消して大きいとはいえないと思う。


 壁や石柱はところどころ欠け落ちていたり、昔は美しい紋様が刻まれていたと思われる壁面も、いまや薄れてなにが描かれていたのかぱっと見ただけではわからない。

 建物が古い、というのは間違いなさそうだ。


「ここ?」

「ああ。レットと一緒に神官見習いをしていた人物が、今ここの教会長をやっているらしい」

「昔の知りあいって言ってた人のことですね」

「その後も、手紙のやりとりは続けていたらしい」

「いいですね、お友だちとの文通!」


 マリィナには友だちという存在がいない。フィールは家族のようなもので、友だちとは違う。ヤギのアネが親友といえるかもしれないけれど、アネと文通するのは難しい。


 そういえば、アネは元気にしているかな。

 これだけ長いあいだ、アネと離れていることは初めてだった。


「さっきじいさんに出した手紙で、アネのこと訊いておいたからな」

「フィール、ありがとう! でもどうしてわたしの考えてることがいつもわかるの?」


「見てればだいたいわかるけどな。今のは、おまえアネって口に出してたぞ」 

「え、そうだった!?」


 全く自覚していなかったマリィナは、フィールに言われて驚いた。

 これまでにも、もしかしたら考えていることをうっかり声に出してしまっていたりしたのかしら、と不安になる。


「まあ、愛敬と思えばいいんじゃないか」


 フィールが慰めるように言う。

 愛敬……? 

 マリィナはいまいち信じられない、と首を傾げた。


 なにより、考えていることがいつ漏れているかわからないということは、うかつなことを考えられないということだ。それは困る。


 高原にいるころ、いつもマリィナのそばにいるのはアネだったから、なんでもかんでもつい考えていることをそのままアネに話しかけてしまっていた。

 その癖が残っているのかもしれない。 


 声に出さない。口を閉じておく。  


 と、ミルティは心の中で繰り返し自分に言い聞かせた。 


「ようやく来た! 遅かったじゃないか」


 教会に踏み込むと、マリィナたちに気づいたレットが早足で近づいてきた。

 そのあとには、木の椀を手に持ったルテアが続いている。


「待たせたか? それは済まなかった――」

「話は、これを飲んでからにしたほうがいいけん」


 ルテアがずい、と椀をディンに差し出した。


「これは?」

「枯れウィネビーと、メズっていう花を混ぜて、煮出した薬だけん」

「枯れウィネビー!?」


 マリィナが驚いて思わず大きな声を上げる。

 枯れウィネビーが危険なものだと教えられたのは、ついこのあいだのことだ。


「枯れウィネビーは確かに危険だ。けれどメズの花にはウィネビーの有害性を打ち消して、別の効能を生み出す成分が含まれている。その別の効能というのが、疫病の予防に有効だと踏んでいる。ただし、混ぜ合わせる分量、煮出す時間、温度なんかの調整が繊細なのが難点なんだけどね」

「疫病か……」


 レットの説明を聞き終えると、ディンが険しい表情を浮かべて呟いた。


「奥の救護室に発症者が三人ほどいる」

「病状は」

「かなり進んでいるようだよ。潜伏期間は一週間ほど。感染した者が他にいてもおかしくないからね。これから、どんどん感染者が現れる可能性がある」


「これは、予防薬だけん」

「ってこと。ここの教会は、国から許可を得て薬の研究をしていたんだ。予防薬に関しても、臨床を兼ねて服用していたらしい。今のところ、服用者が看病などで感染者に接していても、発症はしていない。僕たちの知識からもこの薬は予防薬としての効果が期待できる。僕たちは、もう服用したから」


「フィールも?」


 マリィナの問いに、「ああ」とフィールがうなずくのを見て、ほっとする。


「あとは、あなたがたふたりだけです」

「リューさん!」


 奥の扉から、少し疲れの滲んだ表情のリューが姿を現した。


「まずは薬を。即効性ではない様ですが、飲んでおくに越したことはない、とのことです」


 促されて、ディンとマリィナはレットからひとつずつ椀を受け取り、それをひと息に飲み干した。

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