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アナナスの瓶詰

 パールフの街は、ひとことで言えばごった煮状態だった。

 通りという通りには人が溢れ、道端には見たこともないものを売る露店が所狭しと並んでいる。


「すごい……」


 マリィナはその人の多さに圧倒されていた。

 高原との人口密度が違い過ぎる。

 レルドナも人がたくさんいたけれど、パールフはそれ以上だった。


 なにより、すごくにぎやかだ。

 いろいろな地方の言葉が混ざっているようだけれど、誰も彼も一様に声が大きく、しゃべりに勢いがあり、みな陽気だった。


「港というのは、多種多様な人間が立ち寄るからな。良くも悪くも活気があるし、犯罪も多い。そしてなにより情報が集まってくる」


 通りの石畳は整備されていて、馬車も走りやすそうだ。人も歩きやすい。


「人が増えれば税収も増える。税収が増えれば街の整備もできる」

「あ! そういうことなんですね!」


 なるほど、とマリィナは感心する。

 自然の中でのんびりと暮らしていたマリィナは、そんなこと自分では思いつきもしなかった。

 世の中には、そういう、自分の知らない仕組みがきっとたくさんあるに違いない、とマリィナは思う。


「西五区のエフィネ教会は、この通りを真っ直ぐ進んだ先の広場にあるようだから……」


「あ」


 ディンの説明を聞きながらもきょろきょろとしていたマリィナは、見たことのないものを発見して思わず足を止めた。

 どん、と後ろからぶつかられて、よろめく。


「あ、ごめんなさい」


 急に止まるんじゃねえよ、と後ろを歩いていた人に怒られる。


「おい。大丈夫か?」


 それに気づいたディンが、慌てて自分の体で壁を作って、マリィナを守る。


「わたしは大丈夫です。ごめんなさい、急に止まったりして」

「いや。大丈夫ならいい。それより、どうしたんだ?」


 ディンが訊きながら、さっきマリィナが見ていた方へ目を向ける。


 そこには、網目模様のついた黄色っぽい楕円形の胴の上に、緑の葉がわしゃわしゃとくっついた、不思議なものが山積みになっている。


「ああ。アナナスか」

「アナナス?」

「異国の果物だな。中は黄色くて酸っぱい。が、砂糖漬けは上手いぞ。ほら、あの、瓶詰めになっているやつだ」


 確かに、アナナスの露店の端に、小瓶もいくつか置いてある。


「食べてみるか?」


「あ……。でも、わたしまだお金ないので……」

「ああ、給金がまだだったか。リューに言っておかないとな。まあでも、おれもちょうど食べたかったんだ。買って行こう」


 ディンはそう言うと、マリィナを守りながら露店に近づいて行った。

 近くで見ると、瓶詰めのアナナスはとても鮮やかな黄色で、きらきらしていてとても美味しそうだ。


「瓶詰めをひとつくれ」

「はいよ。1500デルね」

「わかった」


 ディンががさごそと自分の体のあちこちを触りはじめる。

 ん? あれ? と呟く声も聞こえる。


「あの、ディン、もしかして……」

「そうだった。金は全部リューに渡してあるんだった」


 ディンががっくりと首を折るようにうつむく。


「あ、それじゃあ、あとでまた買いに来ましょ……」

「はい、1500デル」


 マリィナが提案しようとした時、すっと横から手が伸びて、1500デルを露店の店主に渡した。

 見ると、いつの間にか、そこにはフィールが立っている。


「どうして!?」

「遅いから心配して見に来た」

「あ、ありがとう。フィールもアナナスの瓶詰め買うの?」

「いや、おまえの。買ってやる。ディンはあとで自分で買えよ」

「もちろんそうするつもりだ!」

「そのときまで、売れ残ってるといいけどな」


 ふたりのあいだで、ばちばちと火花が散っている――ように見える。


 そんなに、このアナナスの瓶詰めは競争率が激しいのかしら? 


 と、マリィナは受け取った瓶詰めの重さを感じながら、このまま自分がもらってしまっていいもだろうかと悩むのだった。

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