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剣士リュー

 わかっています、みたいな感じでうなずかれても困る。


「ディン様、わたしから詳しく説明します。少し彼女とふたりで話をさせてもらってもいいですか?」


「あ? ああ、それは構わないが……」


「すみません。では、少し歩きましょうか。ついてきてもらえますか?」 


 先に立って歩き出した女の人のあとを、マリィナは仕方なくついてゆく。


 アネも一緒だ。


 ちらりと振り返ると、まだ疲労の回復していなさそうな赤毛の人とディンは、草の上に腰を下ろして休んでいるようだった。


 手持ち無沙汰なのか、赤毛の人は花をむしっている。


「あの……」


「ああ、すみません。この辺でいいですね。まず、自己紹介をさせてください。わたしはリュー・ファイリム。剣士ということになっておりますが、普段はディン様をお守りする親衛隊の隊長を務めさせていただいております」


「……え?」


「あちらの方――予言者と名乗っていた、あれは実は我が国の王子なのです」


「ええっ!? あれっ……あいえ、あちらの方が?」   


 確かにしゃべり方は少し偉そうだったかもしれないけど、王子様ってこんな場所をうろうろしてていいものなんだっけ?


 マリィナは首を傾げる。


「ええ。一時期、第八王子であるご自分の存在意義などについて悩んでおられたのですが、ある日突然おれは世界を救う旅に出ると申されまして。どうやら詩人らの冒険譚かなにかに感化されたようなのです。

 親衛隊長としましては放っておくわけにはいかず、同行することに。

 もうひとりの男はレットといって、ディン様の家庭教師をしていた者なのですが、城を抜け出す際に目撃されまして、まあ成り行きで。

 ああ、ご安心ください。国王陛下にはお許しをいただいております。お給金は、もちろん支払わせていただきますので」


 お給金、の言葉に、マリィナはぴくりと反応する。


「えっと、あの、一緒に行くだけでお給金がもらえるんですか?」


「ええ、それでたまにその楽器を弾いていただければ充分です。

 そもそも予言だのなんだのというのは王子が突然言い出したことで、申し訳ないのですが、捜していた楽師があなたというわけではなく、ひたすら王子の示した方角へと突き進んだ結果、ようやく楽器を持ったあなたに遭遇できたということだと推察しています。

 それでも、王子があなたを仲間にすると言えば、わたしどもとしてはできる限りその意向を汲まなければなりません。王子の気が済めば、旅は終わります。ですからそれまでおつきあいいただければと」


「予言、ではないんですか?」


 おまえが必要だ、という言葉にどきどきしていたマリィナは、ほんの少し残念な気持ちになる。


 けれどすぐにそれも当然かと思い直す。


自分みたいななんの取り柄もない子が、王子様の役に立てるとは思えなかった。


 そう考えれば、王子様の思い付き(?)につきあうだけでお給料がもらえるお仕事のほうが気は楽だ。


「第八王子という立場上、色々と悩まれることも多いのでしょう。現実から逃げ出したくなることもあるのでしょう。今後の王子のために、ここでしばらく考える時間を与えるのもよいだろう、と陛下はおおせでした」


「わかりました。わたし、行きます!」


 メエ!?  


「アネ、これはチャンスだよ。ここでの暮らしには不満なんてないけど、いつまでもフィールんとこのお世話になってるわけにはいかないもんね」


 フィールというのは、隣の家に住む、マリィナの幼なじみだ。

 これまでにもこのままでいいのかと考えることはあった。

 けれどこの高原での暮らししか知らないマリィナにできることは限られていた。


「そうです、これをいい機会と捉えていただければと」

「わたしにもできるお仕事があるなんて、ありがたいことだよ。しかも、ここで一緒に行けば、王子様の旅が終わったあとの再就職先だってもしかしたら……」


 ちらりとリューを見やると、再びこくりと頷く。


「ええ。もちろん、再就職先もこちらで手配させていただきます」 


 就職先として、これ以上安心できるところはないだろう。

 なんといっても相手は王子様だ。


 マリィナの心は、決まった。

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