上達の程
「辛くはないか? 困っていることは?」
改まって、ディンに問われた。
「ど、どうしたんですか、突然」
「急にというか、これまでどたばたしていて、落ち着いて話もできなかったからな」
「えーと、家を出た次の日にレルドナに着いて、いろいろあって、ルテアさんが仲間に加わって、翌朝にはレルドナを経って……。レルドナからここまで、三日でしたっけ?」
「ああ。まだ、一週間も経っていない」
「そういえばそうなんですね。なんだか、この旅暮らしにも、もうすっかり慣れたような気がします」
マリィナはこの三日間のことを振り返る。
小さな町を経由しながらの旅で、一泊は野宿だったものの、初めての野宿もマリィナにとっては特に辛くはなかった。
移動速度はレットが基準になるせいか、ゆっくりとしたもので、休憩ごとにマリィナはリアラを弾くことができた。
最初に演奏したときのディンの反応が、ずっと頭から離れなくて、できるだけ練習をしようと心に決めているのだ。
なんでかわからないけれど、せっかく楽師として雇ってもらえたわけだから、気を使って上手いと言ってもらうよりも、心からそう言ってもらいたい。
そう思ってのことだった。
これまでは、本当に気分で弾いたり弾かなかったりという感じだったから、一日にちょっとしか触らない日もあったことを考えれば、かなり状況が変わった。
それも、いいほうに。
家事の代わりに仕事としてリアラが弾けるのなら、断然こちらのほうがいい。
ディンに訊かれていろいろと考えてみるけれど、辛いことなど思い浮かばない。
峠を越える際や、野宿をしているところで、野党に襲われたりもした。
けれどそんなときはリューとフィールが相手を蹴散らしてくれるので、全く不安はなかった。
困っていることは……。
「わたしのリアラの演奏、少しは上達しましたか?」
練習すればするほど、自分の演奏の粗が気になってしまう。
「ああ。おれはマリィナの演奏が好きだぞ」
「ほんとうに?」
「もちろんだ」
その言葉に、嘘はないように聞こえた。
ディンが深くうなずくのをみて、マリィナはひとまずほっとするのだった。




