砂浜で休息を
「すごい……!」
真っ白な砂浜と、その向こうにどこまでも続く青い海。
マリィナは眼前に広がるそれらに、一瞬で目を奪われた。
海が見える前から、今までに嗅いだことのないなんともいえないにおいがしていたのだけれど、そのにおいが海の近い証拠だ、とディンが教えてくれた。
うずうずしているマリィナの気配を察してか、パールフの街のすぐ手前に広がる海岸へ、先に立ち寄ってくれたのだ。
ざざあ、ざざあ、と音を立てながら寄せては返す波が不思議だ。
海水に触れようと砂浜に踏み込むと、砂に足を取られて歩きにくいのも、なんだかおもしろく感じる。
波打ち際で、追いかけてくる波から逃げようとしたところで、砂に足をとられる。
「あっ!」
しりもちをつきそうになったところで、後ろからひょいと抱えられた。
空を仰ぐと、ディンの心配そうな顔がそこにある。
「気をつけろ」
「あ、ありがとう」
ディンが、波のひいた砂の上にそっと立たせてくれた。
「マリィナ、あまりはしゃぐと疲れるから、ほどほどにしとけよ」
フィールがディンの横から声をかける。
「うん。わかってる」
「俺とルテアは、ひと足先に街へ向かう。俺はじいさんに、ルテアは弟に手紙を出しておきたい」
ふたりとも、急遽この旅に同行することになったのだから、連絡をしておきたいというのは最もだ。
「わかった。あとで合流しよう」
「あ、僕も先に行ってるよ。教会に顔を出しておきたい」
レットももう向かうと言う。
「それなら、おれも行こう」
「いや、ディンはあとで来てくれればいいよ。教会といっても、昔の知りあいに会いに行くだけからね」
「そうか。それじゃあ、合流場所は教会でいいか?」
「そうだね。西の五区にあるエフィネ教会で」
了解、とそれぞれが返事をし、六人は二手に分かれた。
先へ街に向かう三人を見送っていると、突然リューがなにかに気づいたかのように「あ」と声を上げた。
「なんだ?」
「そういえばわたしも野暮用を思い出しました」
「リューに、野暮用?」
ディンが訝しそうに見やると、リューが真剣な面持ちで頷く。
「はい。申し訳ありません」
「ふうん。まあ、いいだろう。こっちはふたりでも大丈夫だ。今度こそ、おれがマリィナを守る」
「はい。そうであってもらえると助かります。それでは、失礼します」
そそくさとリューが三人を追ってゆく。
「あの……、わたしたちも、街に向かいますか? わたしは、こうして海を近くで見せてもらいましたし、もう充分楽しんだので」
みんな忙しそうなのに、自分だけ遊んでいるのが申し訳なくなって、マリィナが申し出る。
「いや。従業員に適度な休みを与えるのも、雇い主のつとめだ。あいつらはあいつらで、要領よくやるだろう。おまえもここでしばらく好きなようにしていればいい。おれも、ここで適当に休むことにする。むしろ、少し休ませてくれ」
ディンがそう言いながら、砂浜に転がっていた丸太に腰を下ろした。
「はい。そういうことでしたら。わたしも、少し疲れたので、ひと息つかせてもらってもいいですか?」
「ああ。ここに腰をかければいい」
自分の隣の空いた丸太に、ディンがすっと取り出したハンカチを広げて置く。
「あ、そんな! そんなのいいです。気にしないでください!」
見るからに高級そうなその生地を見て、マリィナはそんなところにお尻を乗せるなんて無理、と慌てる。
「そういうわけにはいかない」
「いえ、そういうわけでいいんです」
マリィナはそっとハンカチを手に取って丸太に座ると、膝の上で丁寧に畳んでディンに渡した。
「そうか」
「すみません、せっかくのご厚意を。でも、わたしはこっちのほうが落ち着くので」
「それなら仕方がないな」
「はい」
そこで会話は途切れ、しばらくのあいだ、ふたりは並んで海を眺めていた。




