新しい仲間
「ところで、このお宿のご主人や他のお客さんは無事なんでしょうか。騒ぎのあいだも、全く見かけませんでしたけど……」
全員そろったところで、マリィナが素朴な疑問を投げかけた。
「ああ。今夜は貸切だ。店主にも、万が一のときのため、別の場所へ一次的に避難してもらっている」
「ですから、その辺は安心してください。修繕費や迷惑料は、もちろんあとから支払いますから、マリィナさんが心配なさらなくても大丈夫です」
ディンとリューの説明を聞いて、なるほど、とマリィナは頷く。
ちゃんと、事前にできる範囲の準備は整えられていたらしい。
「それで、あいつらはどうするんだ?」
フィールが廊下に転がされている男を見やりながら訪ねる。
「朝になれば、店主が戻ってくる。それまで、マリィナたちは少し休んでおけ。こいつらは、俺たち四人が当番で見張る」
「いち、に、さん、よん……。えぇっ!?」
ディン、フィール、リューと指を差して数えていたレットが、『よん』で自分を指さして驚きと不満の声を上げる。
「夜明けまで、もうそれほど時間はありません。当番以外は休んでいればいいんですから、大したことではないでしょう」
「ああ。それで、これからのことだが……。ルテア。おまえの目的はなんだ」
ディンが、びしっとルテアに人差し指を向ける。
「ディン様。人を指差してはいけません」
リューがぴしっと注意する。
え、なんでおれだけ? とディンが不満そうな声を漏らすが、リューは素知らぬ顔をしている。
「あ、あー。えーとだな。というわけで、なんで枯れウィネヴィーを流す手伝いなんかをしていたのか、と訊いているわけだが……」
ディンがいまいち納得できない、という顔をしながらも指を下ろす。
ルテアは口を開いたかと思うと、そのまま閉じてしまった。
ルテアがちらりとレットを見やると、レットが小さくうなずく。
ルテアは少し考えてから、ゆっくりと話し始めた。
「……弟が病気で、両親がおらんけん、うちが稼がんといけん。医者のところで手伝いをして、給金の代わりに弟の薬をもらっとったんよ。夜更けまで薬を売っとったところを、やつらに攫われて、脅された。弟を殺すのも売り払うのも簡単だって……それで……」
「ケヴィーが病気って!?」
レットが噛みつかんばかりの勢いで訊ねる。
「あ、違う。疫病じゃないけん。でも、心臓が弱っとるってお医者に言われたんよ。それで、薬を飲み続けんといけんのだけど、薬は高いけん……。自分で調合したりもしたけど、材料の薬草自体が高価だけん、そんなに作られんのだわぁ」
「なんでそんな……。いつからだよ。もっと早く僕に知らせてくれていれば……」
「はん。王都へ行ってから一度も故郷に戻って来んようなやつに知らせてどうなるっていうんよ。今だって、すっかりサヘルの言葉なんて抜けて、よその国の言葉をしゃべっとるくせに」
ルテアが吐き捨てるように言う。
「いや、これは違うって。僕たちが今グラトリアスの言葉をしゃべってるのは、こっちで怪しまれないように、って……」
「ネールディアに戻ったって、王都じゃあ同じような話し方しとること、うち、知っとるけんな」
「それは、そりゃあ王都じゃあ、そのほうが普通だし、それに……」
レットの声がだんだん小さくなる。
「それはまあいいとして、だ。ルアラ、おまえ今、薬を調合できるって言ったな?」 いつまでも続きそうなふたりのやりとりに、ディンが割って入った。
「まあ、一応。近所のお医者のところで、薬を調合するのを手伝ったりしとったけん」
「よしわかった!」
ディンが、突然声を張り上げた。
あれ、この流はれ……。
と、マリィナはあることに思い当たる。
「リュー、どうだ」
「ディン様の思うとおりになさればよろしいのでは?」
うむ、とディンが大仰にうなずいた。
「ルテア、おまえ、今日から薬師としておれたちの仲間になれ。最終的におれたちはネールディアへ戻る。その時、一緒におまえも戻ればいい。おまえの罪に関しては、帰郷してから、詳細な調べを行った後に判断する。よって、今は問わない」
「え、うちを仲間に?」
「ああ、気心がしれているらしいレットもいるし、名案だろう。いいな?」
急展開に戸惑うルテアに、ディンが畳み掛ける。
「え……、あ……、でも、ケヴィーが……」
「案ずるな。弟君のことはすぐに保護するよう、鳥を飛ばす」
ディンたちは、伝書鳩で国と連絡を取っているらしい。
ルテアがちらりとレットの様子をうかがう。
「ディンは言い出したらきかないんだ」
仕方がない、とレットが大きく息を吐く。
けれどそう言うレットの表情はどこか嬉しそうだと、マリィナは思った。




