美女の事情
「え……?」
戻ってきたフィールを見て、マリィナは驚きに言葉を失う。
フィールの隣に、スタイルのいい女の人が立っていた。
リューの金髪よりも淡い、白金色の髪はゆるく波うちながら腰に届くほどの長さがあるけれど、それを首の後ろでひとつに束ねている。
瞳の色はマリィナの濃緑色よりも淡く、新緑色に近い。
美しい曲線を描く眉と、すっと通った鼻筋、細い顎に、薄すぎず厚すぎない絶妙な唇。
リューに負けず劣らずの美人だった。
「それが客人か」
「ああ。宿の周囲をうろうろしていた」
「どうして連れてきた?」
「本物の客人だったからに決まってるだろ。名前はルテア。出身はネールディアのサヘルだそうだ」
「サヘル。じゃあ、レットの幼なじみっていうのはあなたのことか」
ディンに問われて、ルテアという女の人がこくりと頷く。
「本当に、ここにレットはおらんのだね」
グラトリアスでは聞き慣れない抑揚。
そのしゃべり方はネールディアのものなので、マリィナからすると珍しいものに感じるけれど、グラトリアスとネールディアは歴史を遡ればひとつの国だった時代もあり、言葉はほとんど変わらない。
抑揚や強弱や語尾など細かいとこが異なるけれど、言葉が通じないということはないのだ。
ネールディアの中でも、もちろん方言などあるだろうから、一概には言えないけれど。
「つまり、レットたちと入れ違いになったってことか」
ルテアの話しぶりから、レットたちと遭遇していないことがわかる。
ディンがやれやれという風に嘆息した。
「そんな……」
レットとリューは、危険を冒してまで、会いに行ったのに。
「まさかこんなことになるとは思わんかったけん……。レットに、すぐ街を出ろって忠告しようと思っとったんだけど」
ルテアも、予想外の出来事に困惑しているようだった。
「放っておくわけにもいかなかったから、とりあえず連れてきたけど、どうする?」
「ここで待っていれば、いずれルテアがいないことに気づいたレットたちが戻ってくるだろうが……」
言いながら、ディンがちらりと窓へと視線をやる。
フィールも、ほぼ同時に同じ動きをしていた。
「ゆっくり待ってるってわけにはいかないみたいだな」
フィールが腰の剣に手をかけ、窓辺へ近寄る。
この部屋は二階だから、窓から襲撃される可能性は一階と比べると低いだろうけれど、絶対にないとは言いきれない。
フィールが壁に背をつけ、外の様子をうかがっている。
「どうだ」
「表に人影が五つ。裏にも何人かいるかもな」
「ルテアが裏切ったと判断されたか」
「みたいだな」
ディンとフィールが、ひそめた声で冷静に会話を続ける。
「そんなっ……!」
「戻るつもりだったのか?」
思わず声を上げたルテアに、ディンが訊ねる。
「うちには、戻らんといけん理由があるけん……」
「こうなった以上、難しいだろうな」
ディンが厳しい口調で告げ、ルテアが唇を噛んだ。
「それより、今どうするかを決めろ。突破して逃げるか、ここで迎え撃つか」
フィールが目を眇め、少し苛立ったように、ディンに問いかける。
ディンは一瞬の間を置いて、判断を下した。
「女ふたりを連れて逃げ切れるとは思えない。迎え撃つ」




