夜間外出
ディンのところでの演奏を終えてから、マリィナは部屋へ戻ろうと廊下へ出た。
と、出かける支度を終えたレットとリューとばったり遭遇する。
「今から行かれるんですか?」
「ええ。ひっぱたかれたあと、レットはただ立ち尽くすでくの坊と化していましたが、わたしはあとを追いましたから」
「悪かったな、でくの坊で」
レットがむっとするのがわかったものの、リューのおかげで彼女の居場所がわかるわけで、強くは出られないらしい。
「あの、わたしにもなにかできることがあれば……」
「ない!」
マリィナの言葉を素早く遮って、フィールがばさりと斬り捨てる。
「……そ、そう?」
もちろん、荒事の手助けは無理だけれど、なにか手伝えることがないかなと思ったのだ。
世間知らずで体力もない自分には、手伝えることなんてやっぱりないのか。
マリィナは少ししょんぼりする。
レットとリューにはお世話になっているから、少しでも恩返ししたかったんだけれど。
そんな様子を見て、レットが苦笑を浮かべた。
「高原で会ったときも思ったけど……。フィール。君、ずいぶんとマリィナのことが大切みたいだね。こんなところまで追ってくるくらいだし」
「前にも言ったと思うけれど、俺はマリィナのことを、亡くなったおじさんから頼まれてるんだ。約束した以上、マリィナを守る義務が俺にはある」
「それだけかなぁ?」
「さあ。ま、こんな夜中に幼なじみを助けに行こうっていうあんたにとって、これ以上この話を続けるのは藪蛇だってのは間違いないと思うけど?」
「違いない」
レットが肩をすくめてみせて、フィールもそうだろう、とうなずく。
なにか、ふたりでわかりあっているようだ。
「マリィナさん、その心遣いだけで充分です。相手は素人。居場所もわかっている。夜陰にまぎれて侵入し、彼女と話をする。できれば連れ去りたいところですが、話の展開しだいですね。彼女の仲間に見つかった場合はこれを抜くことになるかもしれませんが、それでもレットとわたしのふたりで大丈夫です」
リューが言うのなら、確かにそうなんだろう。
「わかりました。気をつけてくださいね」
「はい」
「ありがとう。マリィナはゆっくり休んでいればいいよ。心配しなくても、朝までにはちゃんと戻ってくるからね」
リューは目礼して、レットはじゃあねと軽く手を上げて、出かけてゆく。
手を振ってふたりと見送り、階段を下りてゆくふたりの姿が見えなくなったところで、マリィナは隣に立つフィールを見上げた。
「なに?」
マリィナの視線に気づいたフィールが訊ねる。
「リューさんたち、大丈夫だよね?」
「ああ。大丈夫だ。あのリューって人、見た感じ剣の腕はかなりのものだよ。さすが騎士様って感じだな」
フィールは職業柄、たくさんの騎士や傭兵を相手にしてきているから、見ればその強さがだいたいわかるらしい。
「え、リューさんって騎士なの? 親衛隊とは聞いたけど……」
「親衛隊っていうのは、大抵優秀な騎士で組織されるだろ。じゃないと対象を守れないんだから」
「そっか。じゃあ、きっと大丈夫だね」
どうかふたりとも無事帰ってきますように。
マリィナは心の中で精一杯祈った。




