表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/46

隣国

「マリィナ、一曲弾いてくれ」


 部屋に入るなり、ディンが言った。


「たった数人の男どもに拘束されて、女のひとりも守れないような奴が偉そうに命令するな」


 フィールが険のある声を投げつける。


「なんだと」


「短剣を抜かれた時の、おまえの引きつった顔、しっかり見せてもらったぜ」


 うっ、とディンが小さく呻く。


「あ、あれは急な腹痛が原因でだな……」


 いつもの偉そうな態度とはうってかわって、ディンが目を泳がせ始める。


「あんな状態で、よく女を守るだなんて言い切れたものだ」


「それは……」


「言い訳はいい。話があるんだろう。さっさと済ませろよ」


「話はマリィナの演奏のあとでいいだろう」 


 ディンが幾分冷静さを取り戻して提案する。


「いいわけがあるか!」


 だが、フィールには譲るつもりなどないようだった。


 ディンとフィールの険悪な空気をなんとかしようと、マリィナはふたりのあいだに割って入った。


「あのね、フィール。わたし、さっきリアラを落としちゃったから心配で……。おかしなところがないか確認したいから、弾いてみたいの。少しだけ待ってもらってもいい?」


 お願い、とフィールを見上げながら念じる。


 そんなマリィナを見下ろして、フィールが嘆息する。   


「あまり長くないやつにしろよ」

「ありがとう!」


 マリィナは近くにあった椅子に腰を下ろし、さっそくリアラを袋から取り出した。


「ただの鍛冶師だと思っていたが、おまえ、剣を使うのか?」


 マリィナが細かい箇所を確認しているあいだに、ディンがフィールへ話しかけている。


「剣も鍛えるからな。でも護身程度だ。王子様が教え込まれる王国剣術の足元にもおよばないだろうけどな」


「剣は使わない」


 弦を弾いて状態を確認していたマリィナが顔を上げると、フィールが疑いに満ちた瞳でディンを見据えている。


「王子様なんだろ?」


「王子だからといって、剣を使わなければならないということはないだろう」


「でも、剣を使っていれば、マリィナを守りきれたはずだ」


「……剣を抜けば、むやみに怪我人を増やすだけだ」


 はっ、とフィールが嫌な笑い方をする。


「正直に言えばいいだろ。王子じゃないから剣なんて使えないんだ、ってさ」


「なにが言いたい」


 ディンが持ち前の不機嫌そうな顔で、フィールを睨む。


「マリィナは騙せても、俺は騙せない。俺は知ってるからな、グラトリアス王家に王子は五人しかいないって。第八王子なんてどこにも存在していない」


「えっ!?」


 フィールの言葉に驚いたマリィナは思わず手元を狂わせてしまい、間抜けな音が響く。   


 確かに、マリィナは遠い王都に住むこれまた遠い存在の王族の構成なんて知らない。


 高原で暮らすのに、そんなこと知らなくても問題なんてなかったからだ。


 ディンはフィールに肩を竦めて見せる。


「だったらなんだ?」


「予言者だ王子だと言ってマリィナを騙して、いったいなにが目的なんだ」


「目的は既に言ったはずだ。世界を救う」


「世界を? たったひとりの女の子すら危険に晒すような真似をしたくせにか?」


「それに関しては、おれの力不足だった。反省している」


「勝手に反省してればいいさ。マリィナは連れて帰るから、もう関係のないことだ」


「それは認められない。マリィナには一緒に来てもらう」


「おまえっ!」


 フィールが右手でディンの胸ぐらを掴む。


「やめてフィール!」


 駆け寄ろうと腰を浮かせたマリィナを、ディンが手で制す。


「そんなに心配ならおまえも来ればいい」

「はぁ?」 


「そして見届ければいい」

「っふざけるな!」


「マリィナは帰らないと言っている。そうだな?」

「そ、そうだよ。わたしはディンたちと旅を続けるもの」


 例え――ディンたちに騙されていたとしても、マリィナはディンたちがどういう人か、もうわかっている。


 危険に遭遇した時、ディンはマリィナを助けようとしてくれた。


「マリィナ……」


「ごめんね」


 マリィナは帰らない。

 でも、フィールだっておじいちゃんを長いあいだひとりにするわけにはいかないはずだ。


「じいさんは大丈夫だ。受けた依頼はあらかた片付けたから」


 マリィナが考えていることを察したように、フィールが言う。


「え? じゃあ……」


 フィールが、左手で灰色の髪をわしわしと掻き毟る。


 しばらくそうしてから、胸ぐらを掴んだままのディンを見やる。


「条件がひとつある」


「聞こう。だがその前にこちらからもひとつ言いたいことがある」


「なんだ」


「この手を放せ」


 ちっとフィールが舌打ちして手を放すと、ディンはぱんぱんと胸元を整えた。


 向かい合ってふたりが立つと、フィールのほうが少し身長が高く、ディンがやや見上げる形になる。


「それで、条件とは?」


「おまえは何者だ。それを訊かなければ、一緒には行けない。マリィナも行かせられない」


 ふん、とディンが鼻を鳴らす。


「言えないのか?」


「もともと騙してなどいない。おれはネールディア王国第八王子、ディン・フェン・ツア・ネールディアだ」 


「ネールディア!?」


 マリィナとフィールの驚きの声が重なる。


 ネールディアというのは、グラトリアスの隣国の名だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ