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険悪な雰囲気

 フィールの手には一振りの長剣が握られていて、その刃はマリィナを捕らえている男の首筋に添えられている。


「その子から手を放せ」


 つかまれていた手が自由になり、マリィナは急いで男から離れる。


 と同時に、ディンのほうで再び悲鳴が上がった。


 一瞬の隙をついて、ディンが自分を拘束していた男たちを投げ飛ばしたようだ。 


「ちっ。まだ仲間がいやがったのか!」


 苦々しげに、男が吐き捨てる。


「命だけは見逃してやる。とっとと仲間を連れて消えろ」


 フィールが顎で男の仲間のほうを示し、剣を引く。


 男たちは、忌々しそうにこちらを睨みながらも、反撃をしてくることなく去って行った。 


 それを見送って、マリィナはほっと深い安堵の息を吐いた。 


 フィールも長剣を鞘にしまい、鞘ごとくるくると布にくるんでしまう。


「フィール、どうしてこんなところにいるの?」


 フィールは高原にいるはずだ。


 なによりおじいちゃんをひとりにしてしまっては、仕事に支障をきたす。


 おじいちゃんはまだまだ元気だけれど、ひとりでは大変だろう。


 すると、フィールは握りこぶしをつくって、こつりとマリィナの頭を軽くこづいた。


「あんな出て行き方されて、追わずにいられるかよ。妨害するアネを説得するのに時間がかかったせいで遅くなったけど、見つけられてよかった」


 アネがフィールを引き留めてくれていたはずだけれど、賢いヤギだからこそ、なにか思うところがあったのかもしれない。


「うん。びっくりしたけど、助かったよ。ありがとう、フィール」

「おれからも礼を言う」


 こちらへ歩み寄ってきたディンは、いつにも増して不機嫌そうな顔をしている。


「その必要はない。おれはマリィナを助けただけだ」


 フィールのほうも、無愛想な返事をする。


「ディン、怪我はないですか?」

「ああ。おれが守ると言ったのに、こんなことになって悪かった」


 ディンは謝りながら、拾ってくれたリアラの袋を、そっとマリィナに差し出した。


「いいえ。なんともないですから、大丈夫ですよ。リアラ、ありがとうございます」


 袋を開けて中を覗く。幸い、ぱっと見た感じでは激しく壊れているようなことはなさそうだった。


 よかった。


 弾いてみなければ細かいことはわからないけれど、あとは宿に着いてから確認しよう。


「色々と話したいことはあるだろうが、ひとまず宿へ向かおう。リューたちと合流したい」


「おまえは勝手にすればいい。マリィナは連れて帰る」


「フィール!?」


 マリィナは驚いて目を瞠った。


「俺が来なかったらどうなってたかわからない。そんな危険なところにマリィナを置いておくわけにはいかないからな」


「なんだとっ!?」


 ディンが思わず声を上げる。


「そんな……。そんなのダメだよ。わたしはディンたちと一緒に行くって決めたんだから」


「マリィナ……」


 フィールが困ったように、眉間に皺を寄せる。

 ディンがほうっ、と小さく息を吐く。


「とりあえず移動するべきだ。もう日が暮れた。いつまでもこんな場所に留まっているのは危険だ。さっきの連中が大勢の仲間を連れて戻って来る可能性もなくはないだろう。話は宿ですればいい。どちらにせよ、こんな時間から高原に戻るわけにはいかないだろう?」 


 ディンの言うことは最もだった。


 三人はそれぞれに思惑を抱えたまま、宿へ向かって歩き出した。

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