フェルリネイア像
ディンとレットは、教会内で神官や信者らと話をしている。
最近の天気の話から始まって、もうすぐ祭りがあるとか、山向こうでは疫病が流行っているらしいとか、最近治安が悪くなって困っているという話。
更には食事の美味しい飯屋の紹介まで。
そんなふたりの後ろに控えて立っているリューが、手持ち無沙汰なマリィナの様子に気づいたのか、
「教会内なら、自由に見てまわってくださっていて結構ですよ」
とそっと声をかけてくれる。
「ありがとうございます。そうします」
気をかけてくれたリューにお礼を言って、マリィナはゆっくりとフェルリネイアの女神像へ近づいた。
足下まで届くほどに長い髪はゆるやかに波うち、ゆったりとした衣を纏っている。
片手を胸に当て、もう片方の手は救いを求める人々へと差し伸べられている。
その眼差しは、差し伸べる手の先にいるだろう、人々を見守っているようだ。
高い位置にあるフェルリネイア像はマリィナよりも大きい。
近づいてしまうと、首を反らさないとその顔が見えない。
それでも、近くで見てみたかったのだ。
白い石を削って創られたフェルリネイアはとても美しいけれど、その表情は優しさの中に哀しみをたたえているように、マリィナは感じた。
美しい女神、人々に安らぎを与えてくれる存在。
そんな女神を哀しませるものは、いったいなんなんだろう。
女神像に見入っていると、背後から名前を呼ばれた。
振り向くと、ディンが腕を組んでマリィナを見ていた。
どうやら、話が終わったらしい。
「悪いな。そろそろ宿へ向かおうと思ってな」
「あ、いえ。たくさん見られたので、もう充分です。ありがとうございました」
「ならいいが。教会は各地にあるが、ここのフェルリネイア像がおれは結構好きなんだ」
「奇遇だね。僕もだよ」
レットが感慨深そうに告げる。
「……そうなんですね」
マリィナはもう一度、女神像を見上げた。
他の教会には行ったことがないから比べようがないけれど、マリィナも、この女神像が好きだと感じた。
見ることができてよかったと思う。
ずっと高原にいたら、こんな機会はなかっただろう。
マリィナは特に信心深いわけではないけれど、この女神像との出会いには心から感謝するのだった。




