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深淵少女シマモモコ  作者: 雨宮ヤスミ
[三]雷の目覚め
26/46

3-2

「そういう子たちを裁く権利、じゃないな権威があるのかなって」

 

 

 翌日の放課後、アキナはキミヨと連れ立って廊下を歩いていた。廊下は部活に向かう者や家路につく生徒、掃除当番などで少々混み合っていた。


「変なこと言って悪いんだけどさ」


 不意にキミヨはアキナを見やる。


「何か、ちょっと変わった?」

「何が?」


 アキナ自身がさ、とキミヨは首をかしげる。


「ちょっと迷いがなくなったっていうか……」

「いいことだろ?」


 どうだろ、とキミヨは曖昧な笑みを浮かべる。


「今日もさ、×××××さんともめてたじゃん」

「アレは調子に乗り過ぎだ。兄貴が不良だか何だか知らないけど」


 いじめられてる子もいるみたいだし、確かによくないとは思うけどさ、とキミヨは肩をすくめて見せる。


「でも、アキナがそれをする必要ってあるの?」

「どういう意味だよ?」

「そういう子たちを裁く権利、じゃないな権威があるのかなって」


 アキナは「むう」とうなって自分の手を見た。


「周りをよくしていこうって思うのは分かるよ? でも、今の方法でいいのかな?」


 やりすぎちゃってないかな。キミヨはアキナの瞳をのぞきこむようにした。


「あたしにはさ、力があるわけだろ?」


 しっかりと見返して、アキナは言い切った。


「その力の及ぶ範囲のことを、してるだけさ」

「本当に?」


 動じずに、キミヨはアキナの目を見たまま尋ね返す。


「本当に、その手の届く範囲のことなの?」


 昨日ぐらいからちょっと変な気がする。視線を落とすキミヨに、アキナはたじろいだような表情を浮かべた。


「変、かな?」

「ちょっと、だけど……」


 その時、背後から大きなざわめきが聞こえた。そして強い風が廊下を駆け抜けた次の瞬間、「あ!?」と声を上げてキミヨが倒れた。


「どうした!?」


 左腕を下にして倒れたキミヨの体から、赤いものが流れ出して廊下を染める。強い鉄サビのにおい、悲鳴が上がった。制服の右のわき腹に穴が開いている。


 アキナは背後を振り返った。そして、廊下の真ん中に立ちこちらを見据えている彼女をにらみつけた。


「エリイか、何のつもりだ……?」


 にらみ返すエリイの姿は、「ディストキーパー」のそれであった。得物の弓を構え、二の矢を撃てる状態だ。周りの生徒は、それを遠巻きに見ている。


「それはこっちのセリフよ、漆間アキナ」


 同時に放たれた風の矢を、アキナは払いのける。左手の甲に「コーザリティ・サークル」が浮かび、前夜と同じように「ホーキー」をささない内に割れた。


 アキナの姿が変化し、どよめきが起こる。紫色の炎に覆われたアキナは、エリイに向かって構えを取る。


「その炎、やっぱり暴走してるってことね……」


 呟いてエリイは風の矢をつがえる。


「あんた、どうしてあの人を殺したのよ?」

「あの人? ああ、お前の彼氏か」

「そうよ、分かってんじゃない、この人殺し!」

「仇討ちってワケか。あんな男のために……」

「あんたがあの人を語らないで!」


 第三射もアキナはやすやすと払いのけた。


「まあ、仇討ちってことまでは理解してやる……」


 だけどこいつはどういうつもりだ? アキナは倒れているキミヨを見下す。


「何でキミヨを狙った!?」

「あんたがあたしの大切なものを壊すなら、あたしもあんたのものを壊してやる」

「ふざけるなよ……」

「あんたがね!」


 第四射目をも払いのけ、アキナはエリイに突進した。またも周りの生徒から悲鳴が上がる。逃げ出そうとする者の姿もある。アキナの拳は、しかしエリイに届かなかった。


「ヒメか!」


 アキナの突進を阻むように現れたヒメは、武器の扇でアキナの右手を止めた。


「お前、あの男とエリイが付き合うの、嫌だったんじゃないのかよ」

「嫌だよ」


 はっきりとヒメは応じた。


「死んだって聞いて、正直安心した。いなくなってよかったって。でも、エリイは本当に悲しんでた。泣いてたんだ。それを見て、ホッとした自分が許せなくなった」

「だから手を貸すってワケか……こんなバカな真似に!」

「バカな真似をしたのはあなたも同じ」


 扇を蹴り上げ、アキナはヒメに拳を振るう。ヒメは大きく飛び退ってかわし、左にのいた。射線上からヒメがいなくなってすぐ、エリイが矢を射かけてくる。


「当たる……がッッ!?」


 それは、アキナが今までいなしてきた風の矢よりも圧倒的に早かった。胸の装甲に突き刺さり、雷と共に爆ぜた。


「ぐ……これは、雷……?」

「あたしの新しい力、『彼』がくれたこの力で、あんたを殺してやる!」


 エリイは一際大きな雷の矢を放つ。それはアキナに到達する前に三つに分かれた。アキナは身をよじるが、間に合わない。右肩、左脇腹、左膝を突き抜ける。


「ぐああああ!?」


 膝をついたアキナを見て、ヒメはエリイに声をかける。


「エリイ、そろそろ場所を……」


 ヒメは「ホーキー」を教室の戸にかざし、鍵穴を出現させた。ヒメが鍵を開いて、二人は「インガの裏側」へと入っていく。


「待て!」


 何が仇討ちだ、バカな真似だ。何でそれにキミヨが巻き込まれなくちゃならないんだ。あれは殺されて当然のクソ野郎だぞ?


 よろめきながら壁に手をついて立ち上がり、アキナもその後を追う。その目は「ルビー」の名を冠すにふさわしい赤色から、体を包む炎と同じ紫色に濁っていた。

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