表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
深淵少女シマモモコ  作者: 雨宮ヤスミ
[四]怪物と人の心
20/46

4-4

「そんな浅い『改変』で、あんなに強いのはズルくね?」

 

 

「そう言えば、サヤサヤはどこ行っちゃったんです?」


 メガネの弦を押し上げて、シイナは話題を変えた。


「サヤちゃんなら、成田さんの家へ行ったわ」


 何を気に入ったのか、サヤはよくトウコの家を訪れているようだった。


「サヤちゃんも一人暮らしだから、寂しいのでしょう」

「あたしの家には一回こっきりだったのに……」

「あなたのお家は、ゲームで足の踏み場もなかったもの」


 掃除をしなさい掃除を。母親のようなオリエの口調に、シイナは肩をすくめた。


「その成田さんも『最終深点』が近そうね」


 やはり成長度は八割程度だろうというのが、オリエの見立てであった。ちなみにヒメで半分程度、エリイは三割は外れているものの、使い方が分かっていないという状態らしい。


「成田さんは、元々が五個ぐらいは外れていたようなものだけれども」

「サヤサヤがトウコちんを『計画』に引き入れてくれたら、かなり楽になりそうだにー」


 気楽な調子のシイナに、期待はできないわ、とオリエは首を横に振った。


「彼女は『奪われた者』だったかもしれないけれど、今やすべてを備えてしまった」


 わたし達の「計画」に賛同できるのは、奪われた者だとオリエは常々語っていた。その意味で、「エクサラント」から「与えられる」ような「最初の改変」をしたエリイとヒメも不合格なのだそうだ。


「そうかにゃあ……?」


 オリエに言わせれば「求め続ける者」だというシイナは、疑義を挟む。


「トウコちん、アニメの真似事の人格上書きして『すべて』でいいのかねえ」

「アニメ?」


 聞き返されて、「ああ」とシイナは言い添える。


「トウコちんの苗字の元ネタ、『シックザール』とかいうアニメの主人公から付けたとあたしの中で話題に」

「本人が言ったの?」

「推測ですにゃ。でも当たってると思う」


 成田守人という二丁拳銃使いなのだ、とシイナは補足した。


「トウコという名もそこからかしら?」

「さあ? そっちは見当がつかないッス……」


 にしたってさ、とシイナは口を尖らせる。


「そんな浅い『改変』で、あんなに強いのはズルくね?」

「内容的には大規模よ?」

「同じような浅い理由の『改変』した身としちゃ、釈然としないっていうか……」


 あー、と天井を見上げシイナは肩をすくめた。


「気持ちは分からなくないわね」


 まったく、サヤちゃんたらあれのどこがいいのやら、とオリエは湯呑みの中身を飲み干した。


「あらー、オリエさん焼き餅?」

「少しね」


 茶化したシイナに、オリエは冗談っぽくうなずく。


「そう言えば、オリエさんもよくどっか行ってますよね?」

「どこか、とは?」


 一瞬考える間を置いて、「いいか」とシイナは切り出す。


「いやね、うちの近所のお家に入っていくの、偶然見かけちゃって」

「ああ、シイナの家も近かったわね」


 何なんです、と尋ねるとオリエは珍しく本当の意味で柔和な笑顔を浮かべた。秘密を追求するようで、少々緊張していたシイナはホッと胸を撫で下した。


「あれはね、計画に参加してくれる次の『ディストキーパー』が住んでいる家よ」

「次の……?」


 オリエの話によれば、パサラが目をつけそうな「過剰に不幸な」少女らしい。


「風の気質の持ち主でね、正義を純真に信じてる。戦いに向かない子よりはいいと思うのだけれど」


 へー、いいッスね。そう笑って応じながらも、シイナは内心で「やはり油断できない」と思い直す。


 「エクサラント」から「インガ」を傾け世界の進む方向を決める力を奪取する。その「計画」のためならば、オリエは手段を選ばない。五か月間一緒に戦い、新人のころ教育を担当したエリイであっても、容赦なく殺害するだろう。


 こいつはあたしも、身の振り方は気を付けないと。いきなり捨て駒にされたって不思議じゃない相手だし。いざとなったら、「とっておきの種」を使ってしまおう。


 オリエは急須にお湯を注いで持ってきた。お茶のお代わりをいれながら、ちらりとシイナに目を向けてくる。何もかもを見通しているような眼差しで、急に居心地が悪くなった。


 まあ、オリエの治める新世界でごろごろゲームしたり、能力使って遊んだりする一番いいんだけどにゃ。シイナから裏切る気は、今のところは毛頭ないのである。


 お茶の注ぎ足された湯呑みを手に取った時、不意に遠くの空で雷の音が鳴った。


「おや、雨ですかいね?」

「天気予報によると、十時ごろから降り出すそうよ」


 雨は雷を伴って、夜通し降り続くという。オリエは立ち上がって窓の方に近づき、カーテンを開けた。


「こういう夜は、少し不安になるわね」


 何だか、悪いことが起こりそうで。


 タワーマンションの遥か上空では、暗い夜の空を雲がゆっくりと動いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ