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「あたしみたいに、一暴れしたいとか、そういうのがあればいいけどねえ……」
見慣れない街並みでも、このむき出しの灰色は変わらない。そのせいか、どんな場所に来ようとも、どんな街に来ようとも、同じにしか思えない。
「……そう、漆間アキナは使えそうなのね」
見知らぬ街の「インガの裏側」、その片隅で立花オリエは琥珀にそう語りかける。通信の「インガ」を封じた琥珀だ。彼女が「計画」のために苦心して作り上げた、「エクサラント」を介さない連絡手段だ。
通信相手からの返答を受けて、オリエは笑った。静寂の「インガの裏側」に哄笑が響く。
「そう、そんなことを言うのね。面白い子だわ……」
報告によれば、「最初の改変」の理由は探り出せなかったようだが、どうやらパサラはかなり強引な手を使ったらしいことは分かる。そういう手合いは引き込みやすい。
「それであなたは、成田トウコも引き込みたい、と?」
「あれはちょーっと、無理じゃないかにー……」
傍で聞いていた山吹シイナがそうつぶやく。
「シイナの言う通りね、彼女は今に満足しているわ。あなたの個人的な感情はさて置いて、ね」
琥珀の向こうの通信相手は、少し悲しげな口調で応じた。
「あたしみたいに、一暴れしたいとか、そういうのがあればいいけどねえ……」
「動機が不純でも歓迎するわ。仲間は多い方がいいのだから」
にっこりと、オリエはシイナに微笑みかける。その笑顔が怖いんだけどねー、とシイナは舌を出した。
「……なあに? ええ、大丈夫、こちらは順調よ」
応じて、オリエは左手に持った「輪」を握りしめる。それは、彼女が背中に負っている琥珀のついた「インガの輪」をそのまま小さくしたものであった。
「四〇個目の『インガの輪』、回収できたわ」
オリエとシイナは、足元に横たわるものを見下ろす。目を見開き、体を投げ出すようにして倒れた、同年代の少女――「ディストキーパー」の姿を。この地域の「アンバー」、「インガの輪」を奪うため手にかけた彼女の骸を。
「理論上は、あと三十ほど。計画のためにも、お互い死ねないわね」
サヤちゃん。
そう呼びかけられて、琥珀の向こう側から彼女は「ですね」と応じた。
「漆間アキナと成田トウコのこと、頼んだわよ。パサラにはあなたを教育係として推薦しておくから」
通信を終え、オリエは灰色の空を見上げる。さて、この死体を「ディスト」にやられたように「インガの改変」をしておかないと。そう思い、オリエは自嘲気味な笑みを浮かべる。
人間をなめるな、ねえ。
何も知らないというのは、滑稽なものね。オリエ足元に目を落とす。この骸も、今のままでも「ディスト」にやられたという事実は変わらないと言うのに。
だってわたし達はもう人などではないのだから。
「ディストキーパー」の遺骸は、端から「インガクズ」となり崩れて消えた。頭上には昼も夜もない、狂った空が広がっていた。




