帰り道
俺を入れて男2人に女子2人。
これが何の集団かというと、途中まで帰り道が同じ集団である。この帰宅部はそれだけの理由で出来た集まりだ。
ルアが入った事で女の子の話し相手が出来て言葉はウキウキしているし、柊真はルアに話しかけられるたび顔を赤らめている。……わかりやすい野郎だ。
「そういえば今日レイジくん、国語のとき凄かったね。びっくりしちゃった」
「そうですよね! 本当に全部覚えたの?」
言葉と柊真が俺に話をふってくる。ルアはジト目になって俺を見た。
「ねぇ、もっかい最初から暗唱してみて!」
言葉がキラキラした目で俺にねだる。
「いいぜ。『ーー 』」
俺はまた目を閉じて冒頭を空で言ってみせた。
トリックは簡単だ。瞼の奥で邪眼を開き胸ポケットから覗く文庫本を読んでいるだけだ。
こんな事もあろうかと図書室で借りて来たのだ。制服の胸の内側にいい感じのポケットを見つけたので、そこに仕込んでおいた。
「すごい」
「ホントだ」
2人からひとしきり賞賛を浴びたあと、しばらくして岐路にさしかかり、2人(言葉と柊真)とは別れた。
「じゃあね」
「また明日」
「じゃあな」
手を振り2人を見送ると、ようやく2人だけになったので、俺はルアに向き直った。
「……で? お前はどうすんだ」
「どう……って?」
「って? じゃねぇよ。お前、俺を見張るとか言ってたじゃんかよ。でもお前、……てか今日帰る所あるのかよ」
「……」
ルアは質問の意味が分からずキョトンとしている。
どうせ二日前に召喚されてきたから住む家も無いんだろう。どうやって制服を手に入れて入学手続きを踏んだのかはもう考えたくもない。どうせ魔法を使ったに決まってんだから。
「どこで寝るつもりなんだ? ってか昨日はどうしたんだよ。天界に帰ってないのか?」
「ええ、昨日は丹城公園の公衆トイレの屋根の上で寝たわ。でも安心して。今日からは一日中あなたの家の外で見守っててあげるから」
(はぁ……)
ごめん、一瞬だけ溜め息つかせてもらう。
「怖えええよ! ストーカーじゃねーかよ! 夜くらいどっかで寝て休んでくれよ。というかもう天界に帰っていいから」
「そんな事、できないに決まってるでしょ。邪眼の力がある限り監視を続けなきゃいけないし。任を解かれるまで絶対元の次元には帰ってくるなって言われてるから……」
「あ、うん……」
なんかマズい事を聞いてしまった。そうだよ、これはルアの意思じゃなく、聖騎士の仕事としてあっちの世界の上司からの命令に従ってやらされてる事だし……。ルアにとっては不本意でも、断る事は出来なかったんだろう。それに元はといえば俺が邪眼を手に入れたのは、俺の身勝手な行動の結果なのだ。ルアはあの時、奈落の王との邪眼の取引を引き止めたがっていたのに……。
(……じゃあ、この状況って、全部俺のせいじゃんか)
「……ルア、お前、帰る所ないんだろ?」
「うん……」
「じゃあさ。俺ん家来いよ。泊まっていいからさ」
「えっ……でも、そんな事したら迷惑に」
「もう充分迷惑だろ。親には言っとくからさ。俺の家狭くて汚いけど、一晩中外で起きてるよりもいいだろ。……というか泊れ。じゃないと逆に迷惑だ。お前に拒否権無えから」
「うん……。分かったわ」
ルアは少し考えたあと、了承した。
同じ建物の中にずっと居れば、監視も楽になると考えたのだろう。
俺はルアを自宅まで案内した。