部活動
よっしゃー終わったー!
ついに教科書もノートもなしで6時間のりきったぞ。これであとは部活やって帰れる。
帰りのホームルームが終わって鞄を持つと、うしろから女子に声をかけられた。
「レイジくんっ、行こう」
「あぁ、女子Dか……」
「なぁにそれ。わたしモブキャラじゃなくてメインヒロインだと思うんだけど」
御剣言葉が「むぅ」と不本意そうな顔をする。
言葉は俺とは同じ部活動の仲間だ。染めてるわけじゃないのに茶色い髪に、肩にかからないくらいのセミロングが似合っている。こいつは元々見た目とは裏腹に、相当痛い中二病患者なので、変な評価を貰った後のルアにも熱心に絡んで来たのもこいつだ。
「……」
「……今、来栖さんの方がヒロインっぽいって思ったでしょ」
「ごめん、心底どうでもいいわ」
そういえばルアはどうするんだろう。俺が家に帰るまで見張っているつもりなのか?
と思っていると噂をすればルアが、俺の真後ろに立っていた。
「うわっ」
なんで真後ろに。
「あ、来栖さん。もう帰るの?」
「いいえ。私は龍ヶ崎くんを監視していなきゃいけないので、彼についていくんです」
「へぇ……」
言葉が変な目で俺の事を見る。いや待て、変な事言ったのはこいつの方だぞ?
「来栖さんの家って近くなの?」
「はい。龍ヶ崎くんの家の方です」
「そっか。じゃあ、わたし達と一緒の部活に入ろうよ! いいでしょレイジくん?」
俺?
「えっ? あ、まあ、いいけど……」
成り行きにより、ルアが新入部員になった。
別にたいした活動はしていないけど、陸上部の10倍くらい人気の高いサークルなせいで、毎年入部者数が増えて大変なんだ。
「部活って、なにをする部活なの?」
成り行きに流されながら、俺の後をついてくるルアが聞いてきた。
「いや、正確には部活じゃなくて同好会なんだけどな。特になんもしないよ」
他の部員と待ち合わせる為に一階の階段前に来ると、すでに部員の男子全員(2人)が集まっていた。
西園侘充と、朽木柊真。
そう、帰宅部である。
「えっ、来栖さん……?」
驚く柊真に、言葉が得意げに言う。
「来栖さんは今日から帰宅部の新入部員になるんだよ」
「よろしくお願いします」
状況を把握しないまま、取り敢えずルアは男二人に頭を下げる。「マジかよ。頼んでよかった」と侘充が俺を肘で小突いた。
「じゃあ部員紹介。この背の高い方が西園侘充な。前の学校祭の時、幼女に赤ちゃん言葉で」むぐっ
「おい怜士くん? 一回黙ろうか?」
せっかく面白い話が出来そうだったが、侘充にすごいスピードで口を塞がれてしまった。
それを横目に、背の低い方が話し出す。
「僕は朽木柊真です。来栖さん、よろしくね」
俺に酷い紹介をされる前に逃げたな。
柊真は俺と見た目が似ている奴だ。うしろから見たら兄弟に見えるらしい。(もちろん俺が兄で)
「わたしは御剣言葉だよ。あらためて、よろしくねっ」
「みなさん宜しくお願いします」
ルアが改めてお辞儀した。
「じゃあ行くか」
と俺は西園を振りほどいて、生徒玄関へ歩き出そうとしたとき、突然チャイムが鳴り、めんどくさそうなオッサンの声で校内放送が流れた。
『(ピンポンパンポーン)ーーえー、一年四組、さいおんじ君。お姉さんがお呼びです。一階職員玄関まで来て下さい』
「まじかー」
西園が苦い顔をする。
「あー悪い、俺呼び出された。先帰ってて」
「は? なんでお前なんだよ。お前ニシゾノだろ? いつから西園寺になったんだよ。〝寺〟はどうした」
俺がツッコむと、西園は苦笑する。
「ニシゾノはお前が勝手につけたアダ名だろ? 忘れたのかよ。西園寺侘充が読めなくてさ、最初、「西園ジワビジュウ」って……」
あー、そうだった。
「忘れてた。本名ジワビジュウだったな……」
「ちげーよ。もういいよ西園で。……じゃあ俺、迎えが来てるから行ってくる」
何かあるの? と柊真が西園に聞く。
「ちょっと、バイクの教習の関係で……。わざわざ放送で呼び出すなよって思うけどな」
「バイクの免許とってるの?」
「ああ」
「呼び出されたの職員玄関だし、生徒玄関と近いから、途中まで一緒に行こうよ」
という柊真の提案により、俺達は職員玄関へ向った。ルアはただついてくる。
職員専用玄関につくと。ガラス張りの扉の向こうに、背の高い女の人が立っていた。
長い黒髪を下し、凛とした立ち姿で腕時計を見ている。着ている制服は聡くない俺でも分かる、名門女子校のものだ。高校3年生くらいだろうか。
「あの人がお前のお姉さん?」
「ああ」
俺が聞くと、西園が頷く。
「よお、姉貴」
西園が玄関口で呼ぶと、振り向いたお姉さんが微笑み、外側から扉を開けた。
「遅いぞ。あまり姉を待たせるな」
「悪い」
お姉さんは俺や柊真や言葉の方を見ると、侘充に聞いた。
「お友達か?」
こんにちは、と俺達は口々に挨拶をする。侘充が俺を紹介した。
「ふぅん、君がレイジくんか。みんなも、侘充からよく話を聞いているよ。いつも愚弟がお世話になっているようで申し訳ないね。私はこいつの姉の、西園寺禊だ。よろしくね」
禊さんが俺達に向って微笑む。その所作や言葉遣いのいちいちが、かっこいいと思った。立ち振る舞いが堂々としていて洗練されている。侘充によく似た凛々しい目鼻立ちや形のいい眉、背の高さなど、全てが女性としていい方へ作用しているようだった。
「そちらは……?」
禊さんがルアに目を向け、侘充が紹介した。
「そっちは来栖真希菜さん。今日知り合ったんだ」
ルアがよろしくお願いします、と挨拶をする。なんか、二人とも、少し相手を見る目が厳しい。と思ったらやっぱり、禊さんとルア、外見のキャラが被っていた。どっちも黒髪ロングで高身長美人だからか、なんかライバル視のような視線が交差したように感じた。たぶん邪眼で見たら火花散ってただろう。
「そうか。部活動、邪魔して悪かったね。これからもよろしく頼むよ」
「じゃあな。また明日」
西園姉弟が帰っていく。
俺達四人は普通に生徒玄関から帰った。