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休み時間

「あなたまさか、さっきの時間邪眼をーー」


 授業が終わってすぐ話しかけて来たルアは、俺の返事を待つ時間もなくまた女子達に囲まれた。美人の転校生でさらに2日前に日本に来たばかりの帰国子女ともなれば、世話焼きたがりが集まってくるのは必然だろう。

「今の授業わかった?」

「英語も日本語も読めるなんていいなー」

 元々おとなしめの賀古貝さんはその輪から外れていく。

 ルアは受け答えしながら、俺の方をチラチラ気にしている。


「そういえばレイジくん。さっき凄かったねー。あんなに長いの覚えられるんだ」

 と、突然俺に話を振って来たのは女子D……もとい同じ部活の御剣みつるぎ言葉ことは

「あ、そうだよ怜士くん! 真希菜ちゃんと怜士くんってどういう関係なの?」

「うん、さっきだって手引っ張って、どこいってたの?」

 女子CとFが俺にキラーパスの集中砲火を浴びせる。

「えっと、それはあの……」

 考えるな俺! あとでどうなったっていいから適当な事言って誤魔化せ!

「こいつ俺の親戚でさ。で、さっきは学校にいる間はあんまり俺に話しかけるなって、注意しただけ」

「なんだー」

「海外に知り合いいるなんてうらやましいなー」

 女子達が納得する。

 「じゃ、俺図書室行ってくる」と言って俺は席を立つ事に成功した。ルアが呼び止めたそうに俺を眼で追っていたが、今の俺の言葉がストッパ—になって不用意に話しかけられなくなったらしい。

「ねえ真希菜ちゃん。好きな日本食は?」

「えぇっと……わさビーフ」

「好きなアーティストは?」

「えーと……マキシマムザ……(ごにょごにょ)」

 そうそう。俺がさっき教えた通りに答えてれば間違いないからな。


 俺はルアがちゃんと受け答えしているのを確認しながら、図書室へ向った。

 この学校の図書室は小さいものの、ライトノベルから最近の洋書までいろいろなリクエスト本が揃っている。俺にはほとんど縁の無い場所だったが、邪眼(この目)の力を試すにはうってつけだろう。

 ルアの忠告? 知るか。


 こんな話がある。

 超能力を持った主人公が、悪に復讐する。「自分だけが悪を裁く特殊能力を持っているのに。その力を使わないのはおかしい」と。で、それを聞いた師匠がこう諫めた。

『そうか君は、銃を持っていたら、人を殺さずにはいられないのか』と。

 俺ならこう答えるな。「あたりまえだろ」って。即答で。

 要は使い方の問題だ。刃物は人を傷つける事も出来るし、料理で人を幸せにする事も出来る。

 あとルアは、邪眼でものを見すぎると魂が穢れる、とかも言ってたな。

 でももう一つ面白い話がある。

 いつか裕福になるため食費を節約してたバーサンが、栄養失調で死んだんだ(笑)

 バカすぎんだろ。それと同じで、毒された魂が死後にどうなるか云々よりも、今できる最高の手段を選択する事だけを考えるんだよ。


 俺は図書室に入ると、カウンターの前を通り過ぎ、本棚の裏に隠れた。

 俺の眼の能力を知る必要がある。

 今のところ分かっているのは、まず「ページを開かなくても本が読める」ということだ。

 近くにある本なら、目を瞑ってても瞼の裏から表紙を透視して読める。

 さらに邪眼を通して見た物は、本質的な〝意味〟となって頭に叩き込まれてくる。つまり見た物の情報全てを瞬時に理解出来るという事だ。うん、便利。とりあえず困ったときは発動させてみればなんとかなるって解釈でいいらしい。


 おとといの事件ーー俺が邪眼を手に入れるきっかけになった出来事で、俺は邪眼の力を使って敵を倒した。

 その経験から分かった事は、〝魔導書〟っていうのを邪眼で読むと、そこに書いてある魔法の呪文は、念じただけで発動できるようになるらしい。

 その魔導書は今ルアが持っているはずだが、あの本があれば俺は魔法も使い放題だ。

 あとは今朝ルアが言ってて知ったけど、邪眼なら他人の考えている事も読めるらしい。さすがにそこまでチートだとプライバシーの侵害とか悪い使い方いくらでも出来そうなので自粛しておこう。


 よしそろそろ実験だ。

 本棚の陰で、自習している人達の死角になっている事を確認して、邪眼を開いてみる。

 その瞬間、また世界が開けたような感覚が一気に駆け抜け俺を飲み込んだ。

 瞼越しとは大違いな大量の情報が俺に目掛けて流れ込んでくる。目に入る本の内容が全て一瞬にして理解出来る。そのあまりに凄まじい知的快楽の濁流に溺れ俺は声を出して笑っていた。

「ははっ、ははは」

 すげえ、なんだこれヤバすぎる!

 ここが図書室じゃなかったら「Fooooo!!」とか言って叫んでいただろう。滝のような情報量が壮快に吹き抜けていく。俺は目を見開いたまま本棚の間をどんどん進んでいった。

 アルマゲスト、リーマン予想、ユング心理学……スゲェどんどん頭に入って来る。

 これは間違いなく人生で一番刺激的な経験だった。

 図書室を出る時にはもう、俺、世界一知識持ってんじゃないかってくらい頭よくなった気分になった。

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