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SHR

「マジ……かよ……」


 転校生として自己紹介した彼女を見た瞬間、俺は思わず椅子を引いて、立ち上がってしまっていた。クラス中の視線が、教室の一番後ろにいる俺に向けられる。


「ほんとだよ?」


 黒板の前で紹介されていた背の高い少女が、とぼけたように俺に返す。

 なに、怜士レイジ。知り合い? と担任や友人達から好奇の視線を浴びていた事に気付き、俺は「い、いや……」とすぐに着座した。

 彼女はーールアはーーここにいてはいけない存在のはずなのに。


「じゃあ来栖くるすさん。ちょうど怜士の後ろの席が空いてるから、そこに座って。教科書はまだだろうから、怜士に借りなさい」

「はい」

 担任教師に来栖くるす真希菜まきなとして紹介されたルアが、俺の後ろの席へと案内されてくる。

 近づいて来て、すれ違い様、彼女は一瞬だけ俺に微笑んだ。

 なんだ? それだけか? もっと説明が必要だろ。


 担任は何事も無かったかのように朝のホームルームを続ける。俺は平然と後ろの席に座ってきやがったルアの事で思考がオーバーロードしかけている。

 やっと担任からの「不審者情報」と「時間割変更のお知らせ」を聞き流すと。ホームルームが終わった。すぐさま「おい、どういう事だよ。説明しろ」と振り返ると、そこにはすでに転入生を歓迎する女子達がエモノに群がる肉食獣のようにルアの周りに集まっていた。



「来栖さんってどこから来たの?」

「海外って事は、外国語も喋れるの?」

「丹城市に来てどのくらい?」


 女子A、B、Cによる質問の掃射にルアは流れ作業のようにスラスラと答えていく。


「父がクレセリオンに済んでて」

「この世界の言語大系なら一通り理解出来てるわ」

「ここへ来たのは2日前が初めて」


 もう聞いちゃいられねぇよ。

 ルアが答えているのは、異世界からこの世界に来た事についてだ。バカな女子達は普通に帰国子女だと思って会話してやがる。その危ういトークを後ろに聞かされている俺の心境はそのトークよりも危うい。


「髪ながーい」

「だよね、さらさらー。シャンプー何使ってるの?」

「好きなアーティストは?」

「好きな日本食は?」


 見てみると女子D、E、F、Gの質問にもまれて、ルアの目が泳ぎはじめた。この世界についての知識は完璧にあるものの、経験が0に等しいせいで

好みの質問には答えられないのだ。

 ルアは俺の視線を見つけると、助けを求めるような目で見つめてきた。

 めっちゃ困ってる……。

(はぁ……)


 俺は立ち上がると、女子の群れの中に入っていった。俺からも聞きたい事が山ほどあるんだ。

「ごめん、ちょっといい?」

 俺はルアの手を取って引っ張り上げる。

「こいつに話あるから、ちょっと連れてくぜ」

「えっ」

「ちょっとー!」



 転校生と親交を深めたかった、俺への不満剥き出しの女子達の中からルアを連れ出すと、手を引いて教室から飛び出した。追っ手が来る前に思い切り手を引っ張って走り出し、校舎の隅にある化学準備室の中へ連れ込むと、内側からドアの鍵を閉めて俺とルアの二人だけにした。ここは誰も来ない物置き教室だ。


 ドン。


「じゃあ、説明してもらおうか?」

 壁ドン、じゃないけど壁に掌をくっつけ腕を伸ばし、出口は塞いだぞ的に通せんぼする。


「説明って?」

「どうしてお前が転校してきたかの説明だよ。つか、何でまだこの世界にいるんだよ」


 端から見たら質問してる俺の方がヤバい奴に見えるだろうが、違うぞ。説明はメンドいが、〝平凡な日常に突如空から舞い降りて来た、異世界から来た謎の美少女〟がコイツである。

「それは決まってるでしょ? あなたを監視するためよ。あなたが邪眼の力を悪用しない為に」

 

 そうそう。俺は邪眼の力を持っている。

 発動すると右目が赤光し、強力な異能の力を使えるようになるのだ。

 ……何言ってんだ俺は、って思うよな。残念ながらマジだ。


「オメーの監視なんかいらねえよ」

「そういう訳にはいかないでしょ? 使い方によっては星一つ消し去る程の力を持った危険なものなんだから」

 ルアが真剣な目で、言う事を聞かない弟を諫めるような態度で言った。

 ルアは今、黒髪ロングで虹彩もカラスの羽の色に濡れている。日本人にしては端正過ぎる顔立ちとスタイルで、この高校の制服を完璧に着こなしている。

 でも俺は、これがルアの真の姿でない事を知っている。おととい見たコイツは、金髪碧眼の、ボウガンで武装したイカレたドレス女だった。


「言い分は分かった。でもさ、俺の日常を脅かさないでくれないか」

「おびやかしたりなんてしないわ」

「してんだよ。現在進行形で……」


 俺はこの世界の常識と、異世界の存在について周りの奴らに仄めかすなって事を簡潔に叩き込んだ後、了解した。

「分かったよ。で、そっちからの注意事項は?」

 ルアが答える。

「端的にいうと、……二度と邪眼を使わないで欲しいの。その眼は開いておくと、他人の心を読んだり、倫理的に間違った使い方がいくらでも出来てしまうの。それにこれ以上使い続けると魂が穢れてしまう。……あなたはもう既に、一回使ってるんだから!」

「分かってるよ」うるせーな

 うるせーな、だけは「」の中には入れない。


 ルアのいう通り、つい一昨日の事件で手に入れたこの邪眼で、俺は《奈落の支配者》とその手先を葬ってやったのだ。で、今はそのメインストーリーが終わった直後の、後日談的なテンションで始まっているわけだが……。そのおとといの事件なんてものは有象無象のライトノベルで書き尽くされたような月並みな内容なので語る価値もない。


「じゃ、そういう事だから。くれぐれもお前が異世界人だってバレないようにしろよな」

「わかったわよ」うるさいな


 俺は話し終わり化学準備室から出ると、遠くから男友達数人が、密室から美少女転校生と二人きりで出てくる俺の様子をニヤニヤしながら見ていた。俺は後ろから出てくるルアを振り返ると、ルアの後ろで化学準備室の人体模型「たかおくん」が「一部始終見てましたよ」とでも言いたげな顔をしていたので微妙に腹が立った。

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