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ヒースヒルへの道  作者: 梨香
第二章  若い夫婦
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2  目指せ!農家の女将さん!

 ウィリーからの手紙は本人が出て行ってから届いた。


「まぁ、いつ手紙が届くか解りませんねぇ」


 パメラはローラがゆっくりと手紙を読めるように、近所の主婦のところへ最近のドレスの流行を聞きに行った。


 最新流行とはいかなくても、わざわざ流行遅れのウェディングドレスを縫う必要も無いだろうと思ったのだ。


 ウィリーからの手紙は船で仕事を見つけたという数ヶ月前の話だったが、一人にしてごめんとか甘い言葉もいっぱいで、読んでるだけで会いたくなる。


「こちらから手紙を出せないのね……」


 船に乗って、小さいとはいえ土地を買えるものなのか、ローラは知らなかった。


 ウィリーは普通の漁船や商船では無く、危険な海賊討伐船に乗り組んでいた。


「海賊討伐船というより、海賊船なのでは……」


「海軍から討伐許可証を貰っているのだから、歴とした討伐船だ」


 胡散臭げな船長を心より信じているわけでは無かったが、短期間で高収入の職は紹介状もないウィリーには願ってもない。


 竜騎士になる為のリューデンハイムで10年も武術を鍛えてきたウィリーは、海賊討伐にも役にたつ人材だった。


「副官にならないか」


 船長にすすめられても、ウィリーは危険な仕事を長く続けるつもりは無かったし、ローラと共にスローライフを送りたいと思っていたので断り続けた。




 ローラはウィリーと庶民の暮らしをする覚悟を決めて駆け落ちしたつもりだったが、その時点では自分が何一つ出来ないのを知らなかった。


 しかし、ウィリーと離れて暮らしている間に、ゆっくりではあるが家事を覚え、失敗しながらも料理をマスターしていった。


 ローラはウィリーがヒースヒルに小さな土地を買ったと言った時から、農家での暮らしを夢見ていた。


「パメラさん、農家の主婦の仕事を教えて下さい」


 家事だけでも手一杯だろうとパメラは心配したが、ウィリーと農家を切り盛りしていくのなら必要な事は沢山ある。


 春になると、ローラは菜園を手伝ったが、緑の魔力持ちなので作物は見事に育った。


「ローラ、貴女はとても菜園を上手く作れるわねぇ」


 ローラは初めて満足に出来ることを見つけて喜んだ。


「菜園仕事は楽しいですわ」


 パメラに教えて貰いながら、トマトやキュウリの苗を植えていく。


 緑の魔力のお陰ですくすくと育った野菜はとても味も良くて、ウィリーにも食べさせてあげたいと思う。


 菜園仕事は合格したが、ローラは農家の女将さんとして、しなくてはいけないことができなかった。


「ごめんなさい、無理ですわ」


 ローラは飼っている鶏をつぶすのが、どうしてもできない。


「仕方ないね、ウィリーが捌いてくれるさ」


 農家の女将さんなら、鶏ぐらい亭主の手を借りなくても捌けるのが普通だったが、姫君には無理だろうとパメラは溜め息をつく。


「こうやって、脚をくくって下げとけば血が抜けるんだよ」


 パメラは手慣れた様子で鶏の首をはねると、脚を紐でくくって庭の柵にぶら下げた。


 パタンと音がしたと思ったら、ローラは気絶してしまっていた。


「大丈夫かい」


 ローラを抱え起こしながら、パメラは農家の女将さんは無理ではないかと溜め息をつく。


「すみません、初めて見たので……

 大丈夫ですわ、これくらいで気絶していたら、ウィリーの足手まといになりますわ」


 青い顔色で鳥を捌くのは無理でも、後処理ぐらいは出来るようになりたいとローラは頑張る。


「羽を毟るんだけど……

 今日は止めとこうかね」


 首をはねた鶏をぶら下げてある柵に近づくだけでも気絶しそうなローラが、羽を毟れるとは思えなかった。


「鶏の羽もつかうのですか?」


 ローラは農家の生活が自給自足だと聞いていたので、パメラに質問する。


「もちろん、羽を溜めて布団やクッションに詰めるのさ。

 ほら、この麻袋に入れるんだよ」


 大きな麻袋には半分ほど羽が入っていた。


「やります!やり方を教えて下さい」


 ローラは鶏の羽を毟って麻袋に入れていく。


「鶏より、水鳥の羽毛の方が暖かいよ。

 ウィリーは狩りが上手だから、鴨や雉を捕ってきてくれるだろう」


 竜騎士になる為に武術も厳しく仕込まれた筈だとパメラは思った。


 ローラは春から秋までの農家の仕事をパメラから習った。




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