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第8話 遭遇

「これは一体……」


 フィオーナは目の前の岩肌に転がるスケルトンの残骸を見つけ、眉を寄せる。


「頭部が消失、いや完全に粉砕され文字通り粉になっている。一体、どんな衝撃を加えればこんな風になるんだ?」


 クライドは黒い岩の上に散らばる白い粉——スケルトンの骨が極限まで粉砕された痕跡——を手に取り、表情を険しくした。


「これをやったのは、ブラッドレイ伯爵達なのかしら?」

「いや、ブラッドレイ伯爵達はアンデッド達との戦闘を避けていた筈だ」


 フィオーナとクライドは足を止め、思考を巡らせる。二人の近衛兵は、細心の注意を払って周囲を警戒し、フィオーナたちに背中を預けている。


「あまり言いたくないが、近衛兵達の監視をすり抜けて『死者の揺籠』に入った第三の勢力がいるのかもしれない」


 クライドの発言に、近衛兵二人は苦い顔をした。彼等としても、完璧な監視網を敷いていた自信がないのだろう。


「一体、何者が?」

「それは分からない。ただ、ブラッドレイ伯爵には弱味を握られていた貴族は山のようにいる筈だ。我々が生け取りにすると困るのだろう」


 クライドは白い粉を採取用の小瓶に入れる。


「伯爵に自分達の不正をバラされる前に、命を取りにきたというわけね」

「あぁ」


 フィオーナとクライドは確信を強めた。


「俺の予想では、相手は【狂戦士】。あの粉砕の痕は、スキル【狂乱の一撃】によるものだ。一撃で頭蓋を粉々に砕く、野蛮なスキルだ」

「なるほど。厄介な相手ね」


 フィオーナは細剣を握り直す。


「とはいえ、聖騎士と賢者の相手ではない」


 二人は頷き合い、さらにダンジョンの深部へ足を速めた。



#



「チッ、数が多いな」


 通路を抜けた先にあったのは、巨大な空洞だった。その空洞には、百体近いゾンビが、群れをなして徘徊している。


【分解】で一体ずつ処理するのは時間がかかりすぎるし体力が持たない。ちんたらやっている間に、群れに囲まれたら面倒だ。【剣士】や【格闘家】のスキルで対処するのも、この腐敗した肉の群れでは効率が悪い


 どうする?

 

 俺には多くのスキルがある。戦闘用ではないスキルも、使い方次第では道を切り開く武器になるはず。何か……。


 そうだ……!!


「【地脈探知】」


 地面に手を突き【地脈探知】を発動すると、頭の中に周囲の地盤の断面が映し出される。空洞の天井、その上の岩盤の厚さ。


 見たところ、天井の上には大きな空洞がある。ちょっと大きめの衝撃を与えれば、天井を崩落させることができるかもしれない。


 俺は【収納空間】から大型の鶴嘴を取り出した。【鉱夫】時代、岩盤を打ち砕くために使っていた道具だ。


「よし、一網打尽だ」


 俺は肩に鶴嘴を担ぎ、最も近くにある岩柱に静かに近づいた。


「【掘削】!」


 鶴嘴の先端が俺の身体能力を超えた衝撃を生み出し、岩柱を穿つ。


「もう一丁、【掘削】!」


 ゾンビ達が俺に気が付き、ゆっくりと顔を向ける。しかし、怯まない。【掘削】を続けるのみ。


 ゴゴゴゴゴ……!! と不吉な振動が空間に響いた。


「きたぁぁぁああああ……!!」


 狙った岩柱を完全に破壊したことで、天井を支える構造は完全に破綻した。巨大な空洞の天井全体が、凄まじい轟音を立てて崩れ落ち始めた。


 ドォォォォン!!


 一瞬にして、百体以上のゾンビがいた空洞は、瓦礫と土砂に埋め尽くされ、全ては下敷きとなった。うめき声すら聞こえない。


「ふう、完了。さっさと通り抜けるか」


 空洞の向こうへ急ごうとした——その時。


 バリィィン!


 天井の崩落がさらに上の階層の崩落の引き金になったらしい。ガラスが割れるような音を立て、更にダンジョンが崩れる。


「……やべえ」


 とんでもない量の土砂と岩が降り注ぎ、視界が塵芥に覆われる。


「ゴホッゴホッゴホッ……!!」


 埃を吸い込み、咳が止まらない。息が苦しい。


「ヒューヒューヒュー……」


【収納空間】から【調合術】で自作したポーションを取り出し、グイと一本飲む。傷付いた体内が癒され、やっと呼吸が回復した。


「ふぅ、ふぅ、ふぅ……」


 徐々に視界が晴れる。土砂の上に光り輝く球体が見える。球体の中には人影が四つ。ダンジョンの崩落に巻き込まれた人達だろうか?


 球体は俄かに弾け、四人は土砂の上に立つ。白銀の鎧に身を包む女が一人。その横には同じく白く輝くローブに身を包んだ男が一人。その左右に鎧姿の近衛兵が1人ずつ立っている。


「なんで貴方が、こんなところにいるのよ……!」


 それはこっちの台詞だろ。なんで「天空の盾」の女がいるんだよ……!!


「フィオーナ。あの男は?」


 フィオーナの隣に立つローブの男が、侮蔑の視線を俺に向けながら尋ねた。


「先日、ウチの新人を襲った男よ」

「あぁ、ウチの面接に落ちて逆恨みして嫌がらせをしたってやつか」


 ローブの男が俺を睨みつけた。明確な敵意に肌が粟立つ。奴も恐らく「天空の盾」の一員。相当の手練れに違いない。


「まさか、こんなところにまで来て『天空の盾』に嫌がらせをするつもり?」

「そんなわけないだろ! 俺は別の用事があってここに来たんだよ!」


 ローブの男はフィオーナの顔を見る。


「私の【直観】によると、その底辺は嘘は言っていないみたいね」

「となると、ブラッドレイ伯爵を巡る第三勢力はこの男か」

「ウチに面接に来たときは【剣士】って話だったけど、本当は【狂戦士】だったのね」


 いやいやいやいや。【狂戦士】ってなんだよ。勝手なことを言うなよ。本当にこいつ等、むかつくな。


「履歴書を偽装するなんて、カリア神を畏れぬ不届き者ね」

「性根の悪さが顔に出ているな」

「なんでそこまで言われないといけないんだよ!!」


 思わず怒鳴りつける。


「ふむ。やはり野蛮な【狂戦士】だな。ここで始末してしまおう」


 背筋が凍るような一言。ローブの男が手を前に突き出し、魔力を練り始めた。喰らったらヤバイ。本能的に分かる。


 今の俺に出来ること。それは逃げること。


「【氷槍】!」

「【掘削】!」


 魔法が放たれると同時に、俺は鶴嘴で地面に大穴を開けた。そして、無心で飛び込んだ。

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