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第5話 天空の盾との対立

「おい、紋なし。こっちに来いよ」


「天空の盾」の一人、大柄な男が偉そうに声を掛け、酒場の裏、ゴミが積み上げられた暗い路地裏を進んでいく。


 街灯の光は届かず、月明りもない。頼りは二人が腰につけた灯りの魔道具。


 俺は手頃な小石を拾いながら、二人の後ろをついて行く。


「この辺なら、人も来ないだろう」

「後悔するなよ?」


 大柄な男は拳を握り、細身で眼つきの鋭い男は腰の短剣を抜く。【格闘家】と【剣士】だろうか? スキルを覚えているとすれば、単純な接近戦は悪手。【鉄の皮膚】や【斬鉄】は敵が使えば厄介極まりない。


 ここは遠距離から牽制しつつ、確実に倒すべきだな。


「やる前に一つ、確認したい」


 話し掛けて時間を作る。【商人】時代に身に着けた【交渉術】により、相手は自然と俺の話を聞こうとする。その瞬間、二人に隙が出来た。狙うのは腰につけた灯りの魔道具。


 ヒュン! ヒュン! と風切り音。俺が投擲した二つの小石が、確実に二人が持つ灯りの魔道具を破壊した。途端、深い闇が広がる。


 俺は【狩人】のスキル【隠遁術】を発動し、暗闇に溶け込んだ。


「クソ! やられた! 奴はどこだ!」

「やみくもに動くなよ。集中するんだ」


 二人はお互いを背にしながら、静かに呼吸して、周囲の音を探っている。焦った表情が【夜目】を通してよく見える。


 たぶん、二人は俺が斬りかかってくることを想定しているだろう。俺は腰に短剣をぶら下げているし、魔法を使えそうにも見えなかった筈だ。二人が馬鹿にしたように「紋なし」、つまりギルド未所属の人間が魔法なんて使えると思わないだろう。


 実際、俺は魔法は使えない。しかし、遠距離から攻撃する手段は幾らでもある。


 俺は【収納空間】を意識し、中からあるものを取り出した。それは液体の入った薄い袋で、ちょっとした刺激で破裂する。


 俺はその袋を二人の足元に向けて放り投げた。


 バシャ! と音がして袋が弾け、中に入っていた液体が地面に広がり、あっというまに気化する。


「うっ、なんら……」

「こ、こえわぁ……」


 入っていたのは揮発性の高い麻酔薬。【調合術】と【錬金術】の産物だ。


「あぁ……」

「うぅ……」


 二人はだらしなく地面に崩れ落ち、深い呼吸を始める。完全に麻酔が効いたらしい。


 俺は麻酔に気を付けながら慎重に二人に近付き、【収納空間】から出したロープでその身体を縛った。これでもう、暴れることはできないだろう。


「全然、怒りが収まらないな……」


 地味な勝ち方をしたせいで、全くスッキリしない。かといって、無抵抗な二人を殴るのも違う。


「やはり、あれか……」


 俺は【収納空間】から紙とペンを出し、「私達はギルド無所属の底辺に二対一で負けました」と書きなぐる。そして、朦朧とした意識で芋虫のように地面に横たわる二人の前に置き、石を重しにした。


 朝になれば誰かが見付けるだろう。散々、周りの冒険者や俺に失礼な態度を取ったんだ。これぐらい恥をかかせてもいい。


 俺は別れの挨拶をする代わりに一瞥をくれ、立ち去ろうと──。


「貴方、そこで何をしているの?」


 灯りの魔道具で顔を照らされる。相手は女だ。この顔、見覚えがある。


「暴漢に絡まれたので、撃退しただけだ」


 嘘ではない。俺からすれば、二人は暴漢と変わらない。


 女は俺と距離を取りながら、「天空の盾」の二人に近付く。


「貴方、どこかで見たことあるわね……。ウチの、『天空の盾』の面接に来なかった?」


 やはり、天空の盾の本部ですれ違った女だったか。恐ろしい程の美人なのでしっかりと記憶に残っている。


「人違いだろ」

「いいえ。間違いないわ。私は『天空の盾』のフィオーナ。人の顔は忘れないの」


 フィオーナは俺を警戒しながら、地面に転がる二人を照らす。俄かに表情が厳しくなった。


「貴方、ウチの新人に手を出したの?」

「逆だ。そっちが先に俺の料理を台無しにしたんだ」

「本人達に聞いてみましょう。【聖なる浄光】」


 フィオーナが唱えると、周囲がパッと明るくなり、ドーム状の光が辺りを覆った。光の粒が舞い、地面に転がる二人にも降り注ぐ。すぐに動きがあった。


「……ん……ここは……」

「……あれ、フィオーナ様……」


 格闘家と剣士は目を覚まし、フィオーナがその身に掛かったロープを解く。二人は自分の身体を確かめながら、フラフラと立ち上がった。


「この男が、貴方達二人に『料理を台無しにされた』と言っているわ。それは本当なの? 『天空の盾』のメンバーがそんなことをするとは思えないのだけど……」


 フィオーナは静かながらも、迫力のある声で二人に問い掛けた。


「それは違います! この男の料理をひっくり返したのは私ではありません。別の中年の男です」

「その通りです。私も見ていました!」


 いやいやいや。そーいうことじゃないだろ。原因はお前達だろ。


「私には直感を鋭くするスキルがあるの。二人は嘘を言っていないわ」


 いやいやいやいや。その直感、表面的なことしか分からないでしょ! なんなんだよ! 全然、背後関係や真の意図は見抜けてないじゃん!


「喧嘩を売ってきたのは、その男の方です! 『外に出ろ』って」

「その後、その男は卑怯な手を使って俺達の意識を奪ったんです」


 フィオーナは二人の顔を見てから、キッと俺を睨む。


「二人は嘘を言っていないわ」


 あぁ、本当に面倒臭くなってきた。


「酒場に戻って周りの冒険者の話を聞けば、本当はどんな状況だったか、分かると思うけど」

「その必要はないわ。『天空の盾』の面接に落ちた貴方が、酒場で『天空の盾』の新人を発見。憂さ晴らしの為に喧嘩を売り、卑怯な手段で意識を奪ったってことは、もう明らかだわ」


 おいおいおいおい……!! なんでそーなるんだよ……!! マジで話が通じないな……!!


「二度と『天空の盾』に手出し出来ないように、少し分からせてあげましょう」


 フィオーナが纏う空気が変わった。いつの間にか、腰の細剣が抜かれている。流石はSランクギルドのメンバーか。


 しかし今回の件、俺は全く悪いと思っていない。ここまで言われたら、フィオーナに対しても怒りが湧く。


 ここは酒場の裏のゴミ捨て場。あのスキルが有効だろう。


 フィオーナが細剣の先端を俺に向ける。俺は【蟲師】のスキル【蟲群使役】を発動した。周囲に潜んでいた虫達が羽を広げて飛翔し、一斉にフィオーナに飛び掛かる。


「いや、何、きゃぁあああああ……!!」


 夥しい数の虫に集られ、フィオーナは細剣を投げ出して地面に転がる。格闘家と剣士は何が起きたか理解できず、おろおろするばかり。


「どうやら、『分からせる』どころではなさそうだな。俺は行くよ」


 俺は【蟲群使役】を継続発動しながら、酒場の裏から去った。背後からは、フィオーナの悲鳴が何度も響いていた。

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