表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/26

第26話 ネネヴァの力?

 俺はネネヴァとグレイモンドに客人として認められた。その理由はやはり【薬草師】のジョブ。カリア神から授かるジョブが全部で何種類あるのかは分からないが、【薬草師】は全ジョブの中でもかなり好感度の高い方に入るのは間違いない。


 ネネヴァが俺に期待したのはグレイモンドの腰痛の治療だった。得体のしれない迫力を感じることがたまにあるが、普段のグレイモンドはただの老人である。


 つまり、年相応に腰が痛いらしい。


 グレイモンド想いのネネヴァは「腰痛に効く薬を提供してくれるなら、客間を貸してあげないこともないかもしれなくってよ……!?」と無茶苦茶なお嬢様言葉を俺に投げかけた。


 一瞬何を言われたのか分からずキョトンとすると、「爺やの腰の治療をして! その間、客間を貸してあげるから! この辺りで薬草採取して薬の研究をしたいんでしょ?」とネネヴァは言い直し、俺は笑った。そして、ネネヴァの申し出を快諾した。


 で、ネネヴァの家に居候することになったのだが……。


「ところでネネヴァ。その食料や水はどこで調達しているんだ?」


 客室に案内された後、食堂で食事の準備を始めたネネヴァとグレイモンドの背中に問い掛けた。


 見たところ、周囲にはネネヴァの家が一軒あるだけ。近くの町へも徒歩で三日はかかる。もし、二人で生活するのにギリギリの水と食料しか用意していないのなら、俺が呑気に食卓につくのは気が引ける。


「えっ? そんなのその辺で調達してるに決まっているじゃない。パンを焼くための小麦だけは定期的に最寄りの町から届けてもらっているけど」


 俺の心配を余所に、ネネヴァは振り返ってあっけらかんと答えた。


「その辺で……?」

「そう。その辺で」


 毒の沼と呼ばれるダスクホロウ湿地で人間が食べられる食料なんて調達できるのだろうか? そもそも、飲み水はあるのか?


「水は?」

「井戸があるわ」

「その水、飲めるのか?」


 ネネヴァが眉を寄せ、少し不機嫌になる。


「飲めるに決まっているでしょ!」

「そうか……。失礼した」


 事前に集めた情報ではこの辺りは「毒の沼」と呼ばれ、人が暮らすには適さない場所と聞いていたのだが、それは少し大袈裟な表現だったらしい。


 慣れた様子で料理をする二人。手持ち無沙汰でなんとなく、気まずい。ダイニングテーブルに一人つくのも、如何にも客を気取っていて嫌だ。


「何か手伝えることはないか?」


 尋ねると、ネネヴァがくるりと振り返る。


「じゃあ、そこの桶に水を汲んできて頂戴! 家の裏に井戸があるから」

「承知した」


 俺は隅にあった空の桶を手に取り、食堂を出る。背後から聞こえる包丁の音に合わせてスタスタと歩き、玄関から飛び出し、ヌチャと地面に着地した。やはり沼地である。周囲の泥は健康を損ねるレベルで臭い。


 本当にこの辺りでとれる食材を食べて大丈夫なのかと考えながら、家の裏に回った。


 なるほど、ネネヴァの言う通り、こじんまりとした井戸がぽつんとある。石積みの井戸の縁に腰を下ろし、縄に結ばれた小さな桶を下ろす。


 滑車がギシギシとなり、やがて桶の底が水面を叩く音がした。桶が水で満たされ、縄が張る。


 縄を手繰り、重たくなった桶を引き上げた。


「くっせえ……」


 臭い。やはり水が臭い。何様のつもりだと、文句を言いたくなる臭さ。嗅覚を遮断しながら、桶から桶へ水を移す。


 これを数回繰り返すと、食堂から持ってきた桶は満杯になった。右腕にグッと力を入れて、桶を持ち上げる。


「くっせぇ……」


 やはり臭い。こんな水、絶対に飲めないだろ。こんなの飲んでたら病気になるって……。


 桶の水はちゃぷちゃぷと鳴り、足元は泥でヌチャヌチャする。滑って転んだら大変だ。慎重な足取りで玄関までもどり、泥を落として家に入る。


「ウォルト、ご苦労様! そこに桶を置いて!」


 ネネヴァは妙に張り切った様子で、俺に指示する。言われた場所に桶を置くと、悪臭から逃れるように俺は離れた。


 桶に近付いたネネヴァは、一杯まで入った水に手を翳す。何をするつもりだ……?


「えいっ!」


 掛け声に合わせ、ネネヴァの手が青白く輝いた。光は水面を滑るように広がり、桶の隅々までを淡く包み込む。そして、スッと空気に溶けてなくなった。


「ふぅ。これで大丈夫。綺麗になったよ!」

「えっ?」

「綺麗になったの!」


 胸を張って得意げにするネネヴァ。その背後では、グレイモンドが優しく微笑んでいる。


 綺麗になったとは、どういうことだろう? そもそもさっきの光はなんだ? ジョブを授かる前の人間が魔法のようなものを使ったというのか? あり得ない……。


「なんで、そんなに怖い顔してるのよ?」

「あっ、すまない……」

「あっ、焦げちゃう!」


 焜炉の魔道具の上のフライパンが煙を上げ、慌ててネネヴァが調理に戻った。


 俺はネネヴァが「綺麗にした」という桶の水に顔を近づける。


「臭いが……しない……」

「そうなんです。お嬢様は、不思議な力をお持ちなんです。もう、桶の中の水はすっかり綺麗になって、飲むことが出来ます」


 いつの間にか側にいたグレイモンドが諭すように言った。ハッとなる。


『【邪神の欠片】を封印出来る可能性のある人物』とは、ネネヴァのことだ。


 サシャはネネヴァの不思議な力の情報をどこかから仕入れ、【邪神の欠片】を封印出来る人物として、俺に紹介したのだ。


「ネネヴァは……」


 何者なんだ……? という問いを、グレイモンドに投げかけようとして、言葉が詰まった。グレイモンドの表情が一瞬、厳しくなったからだ。


 俺はしばらく、料理をするネネヴァの後ろ姿を眺めているしかなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ