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沈黙の夜  作者: 志に異議アリ


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2/11

了解



慎一は、直人に連絡を入れる時、

用件を詳しく書いたことがなかった。


「今、少し話せる?」

それだけでいい。


理由を書かなくても、直人は聞かない。

それを、慎一はもう知っている。


その夜も、同じだった。

駅のロータリーに停まった車に乗り込むと、

直人は軽く顎を引いただけで、

「お疲れ」とも言わなかった。


エンジンがかかる。

ラジオはつけない。

沈黙は、いつの間にか二人の了解事項になっていた。

(助かるな……)

慎一は、シートに深く背中を預ける。


家に帰る前に、

何も求められない時間がある。

それだけで、息ができた。

「……悪いな」

慎一が言うと、直人は前を見たまま答える。


「別に」

それ以上、会話は続かない。


でもその「別に」が、

拒絶じゃないことを慎一は知っている。


街灯が、フロントガラスを流れていく。

慎一は、直人の横顔を盗み見る。


昔から変わらない。

感情を表に出さない顔。


でも、ハンドルを握る指先だけが、少し硬い。

(わかってくれてる)

慎一は、そう思う。


自分が直人を友達として必要としていること。

それ以上は、望んでいないこと。

言葉にしなくても、

行動で伝わっているはずだと。

「由紀がさ……」

慎一は、ぽつりと妻の名前を出す。


直人は、何も返さない。

でも、耳を塞がない。

「最近、ちょっと冷たくてさ」

慎一は苦笑する。

「まあ、俺が悪いんだけど」


直人は、少し間を置いて言った。

「……そう思ってるなら、いいんじゃない」

その言葉に、慎一は安心する。

責められない。

踏み込まれない。

ちょうどいい距離。

(やっぱり、友達だ)

慎一は、そう結論づける。


直人の中に、

自分への特別な感情があることを、

慎一は昔から知っている。


でも、直人は線を越えない。

迎えに来るだけ。

黙って、送り届けるだけ。


それが、

友達でいようという意思表示だと、

慎一は信じていた。


家の近くで車を降りる時、

慎一は振り返って言う。

「ありがとな。助かった」

直人は、軽く笑う。

「寝ろよ」

それだけだった。


慎一はドアを閉め、

車が去っていくのを見送る。

その背中を見ながら、

なぜか一瞬だけ、胸がちくりとする。

でも、すぐに打ち消す。

(考えすぎだ)


自分たちは、

ちゃんと大人だ。

ちゃんと、友達だ。

慎一はそう思いながら、

玄関の鍵を開けた。




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