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友達
仕事帰りの慎一が、駅のベンチで動けなくなる。
家に帰る気力もない。
妻の由紀からは
「何? 早く帰って」と冷たいLINE。
震える手で連絡帳を開き、気づけば[直人]の名前を押している。
「……ごめん、なんか……声、聞きたくなって」
直人は何も聞かずに車を出し、慎一を迎えに行く。
夜のドライブの中、エンジン音だけが響く。
沈黙が心地よい。
慎一の横顔が、街灯の光で淡く滲む。
「俺さ……もうダメかもしれない」
「ダメな夜なんて、いくらでもあった。俺もそうやって生きてきた」
「……おまえ、強いな」
「強くなんかない。好きな人に手も伸ばせないでいるようなへタレさ。」
一瞬、車内の空気が止まる。
慎一は気づかないふりをする。
直人は笑って、ハンドルを切る。
それで、また何もなかった夜に戻る。
何回目の夜かも数えられず。




