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第三十一話 きょうだいでも血の繋がりがなかったら

 打ち上げが終わって、帰り。

 王城さんとネリネさんとは乗る電車の路線が違うため、お店の前で解散した。

 俺は駅に向かって、夜の街を歩いている。

 が、その歩みは遅々としている。

 千鳥足の姉さんの体を、隣で支えているからだ。


「ふふー」


 姉さんの体は熱い。

 お酒をたくさん飲んで……と言っても四杯なのでものすごく多いほどでもない気がするが。

 結果として姉さんは酔い潰れていた。


「人の気も知らずに、幸せそうだな……」

「んふー。弟くん、さっきのもっかい言ってー」 


 姉さんはまるで甘えるみたいに、俺にくっついてくる。


「さっきのって?」


 歩きにくさが増して困る反面、胸の鼓動が速くなってきた。

 まったく、俺は単純な人間だ。


「弟くんは、だれをいちばん推してるんだっけー?」


 心地の良い、ダルがらみだ。


「はいはい。俺の最推しはニノンだよ」

「えー、なんか言い方がざつ。やりなおし!」

「俺はニノンを一番推してるよ」


 こうなったら、本人が満足するまで何度だって言ってやろう。


「私がいちばん……つまり、私を好きってこと?」

「まあ、そうだね。ニノンのことは好きだよ」


 推しのVTuberに対してであれば、これくらいは許容範囲だろう。

 そう思って一線を引いたつもりが。


「ニノンじゃなくて、姉さんは好き?」


 姉さんは、もう一歩踏み込んできた。


「あー……どういう意味?」

「どういう意味でもいいよー……弟くんは、私のこと好き?」


 姉さんは足を止めて、問いかけてきた。

 酔って潤んだ瞳で、見つめられる。

 ふにゃっとしているようで、嘘をついても見抜かれそうな、独特の雰囲気。


「……好きだよ」


 だから俺は、本当のことを言った。

 どうとでも、受け取れる余地を残して。


「私も、弟くんが好きだよ」


 姉さんは、嬉しそうに同じ言葉を返した。


「そっちの方は、きょうだいとして……って意味だよね?」

「どういう意味だと思う?」

「酔った勢い?」


 なんとか、核心には触れまいとして、解釈する。


「今はだいぶ酔いが醒めているよ」


 確かに。

 いつの間にか姉さんは、俺の支えなしで立っていた。

 そのくせして、くっついていた。


「じゃあ、急になんで……」

「好きって言ってるのに「なんで」ってひどいなあ」

「いきなりだから、困惑して」

「いきなりか、それはそうかも」


 姉さんは納得しつつも、止まるつもりはなさそうだった。


「ところで弟くん。きょうだいでも血の繋がりがなかったら、結婚できるって知ってる?」


 法律的には知っている。

 姉さんと……丹音ときょうだいになってから調べたなんて、言えないけど。


「それが今、なんの関係が?」

「関係大ありだよ。今はお互いの夢があるから、気持ちに明確な答えは出せないけどね」

「明確な、答え……?」

「うん。超大手のVTuberが、若くて有望なプロ級のゲーマーと。しかもきょうだいで……なんて、発覚したらおおごとだよ」


 もはや、「何が」とは聞かなかった。


「まあ、本当にそうなったら……大炎上して活動できなくなりそうだね」


 俺はもう、姉さんに目を奪われていた。

 自分の気持ちが、一方通行ではない。

 そんな、非現実的だと思っていた願いが叶うかもしれないと、期待したくなっている。


「そういうこと! だから今は、きょうだいでいる必要があるよね」

「ああ、俺たちはきょうだいだ」


 それ以上の関係になれないことは、分かっている。

 それでも、気持ちを明らかにする権利くらいはあるはずだ。


「だからお互いの夢が叶った時に、もう一度。私たちがきょうだいじゃなくなる方法について、お話ししたいな」


 その言葉は、もう。

 ただの告白を超えている。

 気持ちを明らかにするだけでも。

 そう思っていた俺と違って、姉さんは。


 ——きょうだいでも血の繋がりがなかったら、結婚できる。


 具体的な将来を、姉さんが思い描いてくれている。

 だからこそ、思い知らされた。

 いろんなしがらみを抜きにしたら、俺は。


「やっぱり俺、丹音が好きだ」


 無謀すぎる、俺の想い。

 だけど姉さんは、優しく笑いかけてくれて。


「じゃあ約束だよ、弟くん」


 そっと頬に手を添えられたかと思ったら。

 次の瞬間には、視界が姉さんの顔で埋まっていた。


 姉さんが舐めていた口直しの飴の甘さと、仄かなアルコールのにおい。

 俺は姉さんと、初めてのキスをした。


「これはまだ、酔った勢いってことで!」


 姉さんは一歩距離を取って、はにかんだ。


「勢いでこんなこと……」

「こんなことー? あんなのはまだまだ序の口だよ、弟くん」

「まだまだ……って?」

「私の本気は夢が叶った時まで、取っておくから」


 本気。

 本気だと、一体どんなことをするんだろう。

 それを知る方法は、一つだ。


「そういうことなら……まずは目の前の大会だな」


 俺は過去最高に、やる気が出てきた。

 俺たちの夢はまだ、始まったばかりだ。


「ふふ。私も帰って配信……と思ったけど、明日にしようかな」

「夢のために頑張るって言ったばかりなのに、いいの?」

 

 登録者100万人規模のVTuberとかになってみたい、なんて姉さんは言っていた。

 ライブの振り返り配信はしないんだろうか。


「うん。今日のうちはまだ、さっきの余韻に浸っていたいからね」


 姉さんは口元を押さえながら、嬉しそうな笑顔を見せた。

 お酒のせいか、頬が赤く染まっている。

 

 やっぱり俺の推しは、最高にかわいいな。





一旦これで一区切りとなります!

機会があればまた続き書くつもりなので、完結にはしません。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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